清水エスパルス:左伴前社長の種播きは実るか

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営業収益増収の取り組み

先述のYoutube番組のもう一つの印象深かった話は、左伴前社長が売上(営業収益)を常に意識し取り組んでいたことです。
2017年のサポーターミーティングでは、左伴社長は3カ年計画(いつからの3カ年かは私の手元には情報がなくすみません)では営業収益40億円、強化費18億円を目標としていると語っていました(Youtubeの方では45億とありましたが)。2017年1月期の清水の営業収益は33億円です。それはJ1リーグでトップ3に入るための一つのバーであると当時の左伴社長は考えていました。
ウェブで見る限り、2017年から2019年のファンミーティングの議事録が確認できますが、マネジメントとしては清水エスパルスがふさわしい規模になるため、長期的視野に立った取り組みをしていたように理解できます。
以下、個別に見てみたいと思います。

リブランディングプロジェクト

最もファンミーティングやYoutubeで取り組みとして言及されていたものです。リブランディングプロジェクトは平たくいうとエンブレムの見直しです。確かにJリーグ関係のエンブレムはいわゆるあの、カズが風船からボーンと出た、バブル臭を感じるものが結構あります。その典型がJリーグそのもののエンブレムです。当時のDCブランドのような時代の違うキラキラ感を感じます。あの頃F1が流行し、Tスクエアの音楽が流れるような。
そうした時代に出来たエンブレムを、ファンの声を集めながら新たに作り上げていくというものです。字体、色味、エンブレムに地名を入れるのか、など2018年10月から2019年12月までに作り上げます。この結果、こんなエンブレムが出来上がりました。カッコイイです。このプロジェクトが素晴らしいと思えるのは、サポーターのロイヤリティを上げること、そして、何より予算が大規模にかからないことです。
そして、このプロジェクトは大きな意味があると考えています。もちろん清水エスパルスに関わる人々のプライドを喚起するのが一義的なものでしょう。一方で、売上の観点では収益的には物販収入の拡大を見込んだもの、そして最終的には入場者増などへの波及を狙ったものなのだろうと思っています。サッカーどころの静岡としては、地元の理解は高いものの、大きな金額を獲得できる大きなスポンサーは多くないです。この結果、鳥栖は東京からスポンサーを見つけてきているのですが、地域がプライドを持ちつつ、サッカーが根付いている静岡という立地を考慮し、地元の一般の人々からの収入獲得という取り組みを行ったのだろうと考えています。例えば、街に出ると、マンチェスターユナイテッドやバルセロナのエンブレムが入った服を身に付けている人を見かけることも多いですが、Jリーグチームのそうしたグッズを日常身につけている人は試合の日を除いてそれほど見かけません。リブランディングプロジェクトは、清水エスパルスがそうした日常に食い込んでいくための先鞭として取り組まれたのかと思います。そして、日常にエスパルスグッズを目にする機会が多くなり、身近に感じる人が増える(特に子供だと思います)。そして関心を持ち、試合に応援に来る、という循環も見込んだものなのでしょう。
物販収入の異なるところは、スポンサー収入と比較しBtoCであること、そして入場料と比較し天井がないことです。物販収入をさらなる柱に育てられれば、収益構造としてはブレにくくなり大きな強化となるでしょう。
清水エスパルスのグッズ販売の売上比率は10.3%で、2019シーズンJ1リーグ平均では8.8%です。2019シーズンの決算で最も物販収入の比率が高いのは、浦和レッズで12.4%。仮に物販収入が浦和並みの水準となった場合、2020年1月期の売上から試算すると1億円程度の底上げになります。実際にはもっと高い水準を期待したいところですが、一つの取組事例として今後の物販収入の推移とその先に注目したいです。
この、クラブのアイデンティティを確立するためのブランディンプロジェクトに際し思い出すのは、大洋ホエールズから横浜ベイスターズに変わった時のことです。ショックでした。「ベイスターズって何だ?」、「湾の星?」、「そんな単語あるのか?」、と大洋のシックなユニホームと変な名前に変わってしまったショックをいまだに私は引きずっています。高木豊のベイスターズのユニホームが似合わないこと似合わないこと。アイドルCoCoが歌う応援歌の軽いこと。
この清水の取り組みは羨ましいです。もし、ホエールズがこれをやっていたらどうなっただろうとも思いました。他のチームでもやった方が良いと思います。

スクール

清水エスパルスのスクールの売上はJリーグ上位です。
2019シーズン J1リーグアカデミー関連収入ランキング
予算が限られるチームであること、そしてサッカー人口が厚い地域性を考慮すると、スクールに力を入れることは売上以上に有望選手獲得やサポーターのロイヤリティ向上に寄与する重要かつ長期的な取り組みです。
左伴社長はスクールへも手を入れました。
2019サポーターミーティングによると、スクールの値上げを行ったとのこと。理由はスクールが赤字でトップチーム人件費から費用を工面しているため、スクールの部門一つで自立する必要があるとの判断だそうです。赤字の理由としては、スクールの会費が事業開始以来の金額である一方、スクールが5カ所から26カ所に増えたため、その分の固定費がかかってきたのが要因です。開示されている損益計算書を見るとアカデミー関連の収支(スクール)は下表の通りです。
アカデミー収支の推移
粗利自体は黒字ですが、恐らく販管費の配賦も考慮して評価すると赤字なのでしょう。値上げは2018シーズンと見られますが、粗利ベースで確かに2020年1月期(2019シーズン)の粗利は57百万円から95百万円と大幅に上昇しています。これがスクールに送り込む親御さんたちから支持されるかは今後のアカデミー収入の金額で確認できるでしょう。
また、議事録によるとスクールの人数は2019年の時点では4,000人おり、リーグトップとのこと。3,500人(いつの時点からかは不明)から増加させたそうです。
アカデミーの収支、及び今後のユース組からのトップチームへの昇格の人数を確認することにより、この策の成否としては今後注視していくと面白そうです。

新スタジアム

現在、IAIスタジアム日本平は、サッカー場そのものとしては評価が高いものの、施設基準に示される「観客席すべてに屋根をかけること」や「洋式トイレ」などにおいて、基準を満たしていません。アクセスにも問題を抱えています。清水駅からバスで20分、静岡駅からバスで40分です。新スタジアム建設は長年清水エスパルスの課題になっていて、今なおその計画は確定しておらず、左伴氏から社長を引き継いだ小室社長も課題として引き続き取り組んでいく方針です。
清水エスパルスの入場者数は2017シーズンが平均15,116人、2018シーズンが同14,991人、2019シーズンが15,043人と15,000人程度が観戦に訪れています。IAIスタジアムの収容人数が19,549人ですので、収容率は77%程度です。悪い数字ではないと思いますが、仮に新スタジアムで試合開催ができた場合、入場料及びその他副次的な効果も含めてアップサイドが期待できるでしょう(使用料もあると思いますが)。
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新社長就任

2020年1月より、清水エスパルスは山室新社長を迎えることとなりました。第一勧銀に入行、後のみずほ銀行では執行役員になり、その後2014年1月に千葉ロッテマリーンズの社長に就任し、就任前は推定年平均27億円の赤字を計上していた球団の黒字化を果たした人物です。みずほ銀行にて、いわゆる旧帝国大学出身ではなく、私立大学出身であること、旧3行の中で最も出世が難しい第一勧銀出身者であること、そして何より千葉ロッテマリーンズでの実績を考えるとかなりのやり手なのではと思います。
先述のYoutubeの番組では、左伴前社長は毎年1年契約ではあったものの、直前まで退任の打診は特段なく寝耳に水だったようです。左伴前社長はこれまでのキャリアでは、横浜Fマリノス、湘南ベルマーレとそれぞれ6年一区切りで迎えてきたため、5年での退任に心残りをにじませています。恐らく、山室社長も手腕を発揮されるのだと思いますが、左伴前社長のエスパルスへの種まきも踏まえて今後の清水エスパルスを眺めていきたいと思います。

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