欧州スーパーリーグ構想はアメリカ資本の毒まんじゅう

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株価は反応

時差出勤のため、早起きして朝ごはんをとりながらモーニングサテライトを見ていると、マンチェスター・ユナイテッドとユベントスの株価が急騰しているとのこと。その理由はヨーロッパ・スーパーリーグ(ESL)構想によるものでした。
株価はこんな感じの動きを示しました。
ユベントスの株価
マンチェスター・ユナイテッドの株価
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KPMGが指摘する市場の変化

今回の事象についてKPMGが次の主旨の解説をしています。
  • エリートクラブは新しいビジネスモデルに向かっており、真のグローバルブランドとして世界中の観衆を引き付けたいと考えている。
  • これらクラブは、ソーシャルメディアによるアピールや魅力的なコンテンツを生み出し、巨大なファン層を誇る。
  • 現在、デジタルエンターテイメントやコミュニケーションに精通したZ世代をターゲットに浸透すべく取り組んでいる。
  • このような変化と、2011/12シーズンにフィナンシャル・フェアプレー制度が始まったことも相まって、経済的なパフォーマンスと成績の二極化が進んでいる。
  • ここ20年で5大リーグ以外で、UCLで準決勝にたどり着いたのはわずか3チームであること、そして、優勝したのは2004年のポルトのみという事実はそれを物語る事例である。
ここ10年のトップ10クラブの収入構成がその根拠を示しています。入場料収入の比率が漸減していますが、商業収入がその比率を高めており、近年安定的な成長を見せる放映権収入をも上回っています。
ヨーロッパトップ10クラブの営業収入の内訳
(出所:KPMG)
KPMGは現行のビジネスモデルの限界についても指摘しています。選手によっては年間70試合を超える過密日程や、頻繁かつ長距離な移動により疲労や負傷が発生していること。そして、フィナンシャル・フェアプレー制度が導入されたものの膨張する選手のサラリーと、それに伴う移籍金やエージェントフィーの増加などによるクラブ財政へのに深刻な影響を与えていることなどを挙げています。
UEFAも日程問題、コスト抑制、各大会の運営管理、移籍制度などについて改革に取り組んでいるものの、歩みは遅いとKPMGはコメントしています。
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追い討ちをかけるコロナ禍

2019/20シーズンのESL参加(予定だった)クラブの純損益
※リバプールは未開示
(出所:KPMG)
上表は2019/20シーズンのESL参加(予定だった)クラブの純損益です。
各クラブ、コロナ禍により大きな痛手を負っています。前回投稿でバルセロナはもう一度同じ損をこいてしまうと、債務超過であるとも言及させていただきました。ミランの財務諸表を調べてみても同じような状況でした。なお、中でも状況が良好なチェルシーやレアルの状況については、こちらの投稿にて説明させていただいています。
緩やかに進む市場の変化を捉え、そして現在の財務的な背水の陣の状況を打開するため、蜘蛛の糸のように降りてきたのが、ESL構想でした。

ESL構想の概要

ESL構想は、UEFAなのではなく、ビッグクラブらこそが、収入分配の仕組みも決め、管理するべきという考えに基づいています。
ガーディアン紙によるウェブサイトのコーディングで見つかった未公開のマニフェストでは、UEFAの大会、そして各国リーグの収益面に焦点が当てられ、停滞している放映権料を既存のUEFA大会からの離脱の理由として、以下の主旨の内容を記しています。
・ライブメディアの権利の価値が停滞または低下している。
・一部の大会はファンのニーズに応えられておらず、新しい世代のファンは、10年前には存在しなかった方法でエンターテイメントを追求している。
・そうしたフットボール界の弱みは何年にもわたって知られてきた。コロナウイルスは単にその酷さを晒し、誰も関係者は答えに出会っていない。行動しないことはありえない。
・ESLのオーナーシップによって、ライブマッチの配信方法、テクノロジーによって高められたルール導入や選手の開発など、我々は早急に大会に対する新しいアイデアに適応し、取り入れることができる。
・もう、我々はこの分野で外部の主体に頼ることはできない。
12チームは、そしてここ3年レアル・マドリードと密接に協力して取り組んできたキー・パートナーズ・キャピタルのアドバイスを受け、JPモルガン銀行からの信用供与が行われました。

曲がり角を迎える放映権収入

ESLに関する経緯はsportsbusiness.comに詳しいので、内容に沿って書きます。まず、各国の放映権料の動向をご紹介します。

イタリアスペイン

ESLに手を挙げたクラブ、特にイタリアとスペインのクラブは、現在の既存の大会の放映権料の伸び悩みに懸念を抱いており、ESLをその解決策として位置付けています。
スペインの2大クラブの放映権は横ばいの見通しですが、イタリアでのチャンピオンズリーグの放映権は、次の2021-2024年のサイクルで20%値下がりする見通しです。また、セリエAの放映権も、次の3年間で高い確率で値下がりする見込みです。

放映権料が上昇する国

2021/22シーズンのチャンピオンリーグ及びヨーロッパリーグの放映権が大幅に上昇する国もあります。
ドイツのチャンピオンズリーグ放映権は、次のシーズンでは190百万ユーロから320百万ユーロと70%値上がりします。
フランスでは、1シーズン315百万ユーロから375百万ユーロと19%値上がりします。
北欧では113%、バルカン半島では134%チャンピオンズリーグの放映権が値上がりします。アメリカでは、チャンピオンズリーグ及びヨーロッパリーグの放映権が58%値上がりします。
しかしながら、このようにCLの収入のパイが増えたとしても、今後想定される大会方式での36チームでの分配とESLを比較した場合、金額的に大きく見劣りします。

アジア

日本、中国、韓国などのアジア各国では、チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグの放映権の金額はまだ確定していません。
ESLに手をあげたビッグクラブらは、特に商業的なポテンシャルを見込む中国において、リーグ等の単位より、彼ら個別のチーム自身の方が認知が高いと考えており、直接ファンにアクセスし収益化するため、サブスク収入やファンのデータを収集するため、自前のプラットフォームを通じた配信の実験に熱心に取り組んでいるといるようです。

イギリス

イギリスからのCLELの次の3シーズン分の放映権サイクルの収入は現状から横ばいの見通しです。
これについて、アメリカでいい思いをしているアメリカ人オーナーは面白くありません。リバプール、アーセナル、マンUなどのプレミアリーグのアメリカ人オーナーは、NFLの2023-2033の国内放映権が、前サイクル比80%の増収となることを強く意識をしています。この11年間に渡る大増収の契約は57億ドル(47億ユーロ、5700億円)から、100億ドルへの増加を果たすのですが、これがスポーツの放映権の新しいベンチマークになっています。
ブレイザー一家はタンパベイ・バッカニアーズと、マンUを所有しています。スタン・クロエンケはロサンゼルス・ラムズとアーセナルを所有しています。リバプールのオーナー、ジョーン・ヘンリーは、MLBのレッドソックスを所有しています。こうしたプレミアクラブを保有するアメリカ人オーナーたちは収入ベースを強固にし、(金銭上の)価値向上を狙っています。

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