欧州スーパーリーグ構想はアメリカ資本の毒まんじゅう

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ESLの金銭的メリット

UEFAの収入とCLの賞金

2019/20シーズン、UEFAの大会から得られる商業収入約33億ユーロ(約4,290億円)の81.5%を放映権収入が占めました(18/19~20/21シーズンの直近3年の契約サイクルで26.5億ユーロ(約3,445億円))。商業収入のうち、約20億ユーロ(約2,600億円、構成比60%)がCLの32チームに配分される予定でした。しかしながら、スポンサーや放送局に対するコロナ禍による払い戻しが発生し、賞金は15.5%減額され、結局2019/20の賞金合計は16億ユーロ(約2,080億円)となりました。
なお、コロナ禍によるスポンサー等への払戻し前の支払予定は以下の内訳でした。
CLの賞金分配

ESLの賞金

ESLは20チームで構成され、年間30億ユーロの賞金を想定していました。これは、2019/20のUEFAのCLの賞金総額(コロナによる減額前)より54%多く、しかも現行CLより12チーム少ない20チームに分配されます。ESL参加チームは最低150百万ユーロ(約195億円)、最大240百万ユーロ(312億円)の賞金を以下の方式により獲得できます。

ESLの賞金分配
ESLは、放映権料及びマーケティング権料として1シーズンあたり40億ユーロ(約5,200億円)の収入を見込んでいました。そして、その収入のうち85-90%が放映権料と見込んでいました(34~36億ユーロ、約4,420億円〜4,680億円)。結果、放映権料は28~36%の増収することになります。
加えて、JPモルガン銀行が、15の設立チームにインフラ支援金を目的に3.25-3.5十億ユーロの準備をしていました。これを他の返済に充当し、コロナからの回復の原資にすることが見込まれていました。これにより、各チームは350百万ユーロから、100百万ユーロが供給される見込みでした。
また、詳細不明ですがESLは団結資金として1シーズンあたり400百万ユーロを支給するともしています。
なお、今となってはJPモルガンも本件に関与したことを後悔している模様です。

ESLの大会フォーマット

ESLはアメリカのスポーツから強い影響を受けていますが、建て付けはバスケットボールのユーロリーグによく似ています。
もともと、2018年にキー・パートナーズ・キャピタルの提案では、ESLは16チームで構成され、永久資格の設立メンバーである11チームが株主として保有するというものでした。その後、設立メンバーは15、リーグは20チームに拡大したものの、基本コンセプトは同じです。ESLはトップクラブと看板選手を必ず目にできるようにすることが、放映権収入の増加につながると考えています。
合計15のチームが永久参加の権利を保有します。そして、残りの5チームは、シーズンごとに招待されます。毎年、8月にグループステージが開始し、10チームごとに分けられた2グループ内で、総当たりのホーム&アウェイで試合を行います。そして、ノックアウトステージでは2レグのベスト8とベスト4、1レグの決勝が続きます。
バスケットボールのユーロリーグは、複数ステージのトーナメントと11チームの永久所属チームのフォーマットで、商業的な成功を収めています。ユーロリーグの商業収入は、2015-16年の28百万ユーロ(約36.4億円)から、2020-21シーズンの70百万ユーロ(約91億円)に増えました。年間150%の増加です。
但し、この成功は20シーズンにわたる、IMGエージェンシーとのジョイントベンチャー、及びメディアやスポンサーとの話し合いにより成し遂げたものです。

Key Capital Partnersとは?

ところで、キー・パートナーズ・キャピタルという会社を聞いたことがなかったので、少し調べてみました。

リンクトインによると、キー・パートナーズ・キャピタルとは、マドリードにある金融会社で、Alex Matitia Cohenという人が2010年に立ち上げました。資金調達支援、M&A、デリバティブの販売などを行っているようです。

社員は30人くらいですが、各部門に欧米の大手金融機関出身+欧州MBA出身の人が配置され、それなりの会社っぽいです。

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今回の騒動とは何だったのか

私としては、今回の騒動は3つのポイントを感じています。

第一に、ちょっと乱暴ですが、今回の騒動はヨーロッパのスポーツマーケットの奥の院に対する、アメリカ資本による一種の侵略に見えるということです。コロナ禍で痛んだ欧州サッカーのマーケットに対し、米国資本のJPモルガンとキー・キャピタル・パートナーズがバスケットボールのユーロリーグに倣ったフォーマットを引っ提げ、苦しむクラブたちに金と手を差し伸べました。苦しむビッグクラブらは蜘蛛の糸として掴もうとし、投資の価値向上を目指すアメリカ人オーナーたちも当然に呼応したという絵として見えます。今回は、UEFAやサポーター等様々な方面からの反発があり、元寇の如く追い払われることになりました。

2つ目はこれまでの方法による拡大路線の限界です。ビッグクラブたちは勝つために、そして置いていかれないために、高騰を続ける人件費を背伸びして払い続けてきましたが、コロナ禍によりとうとう持続出来ないその時がやってきたのかなという印象です。
大赤字のために背水の陣に追い込まれたビッグクラブたちにとって、ESL構想はコロナ禍で痛んだ財政状態の治癒だけでなく、限界を超えて、新たな成長サイクルに入るための起死回生の策でした。
欧州のサッカークラブは、変化する市場の中でどのような生き残りと成長を目指すのか、正念場に差し掛かっているのだと思います。

そして、3つ目は、クラブ以外の立場から見たESLです。
ESLにより、クラブの収入は上がる見込みです。しかし、それは何かに転嫁されます。放映権料が上がるということは、新たな媒体と契約したり、DAZNの料金が上がったり、DAZNのチャンネルが減ることになるでしょう。スタジアムの入場料も上がります。先述の通りアメリカ人オーナーが意識するNFLでは「家族で生観戦すると平均502.84ドル(約52,798円)かかる」という記事がありました。これでは気軽にスポーツ観戦に行くことはできません。

このあたりを踏まえ、毒まんじゅうだなあという印象を持ちました。

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