デロイトUKが考えるフットボールビジネス 2020/21シーズンとその先

はじめに

コンサルティング会社デロイトの英国法人がコロナ禍を踏まえたサッカービジネスの適応に関する記事“COVID-19, Football & Digital: 2020/21 Season & Beyond”公開しているので、ポイントでなぞってみたいと思います。

同記事では、プレミアリーグでの事例も紹介してあり、今後、サッカービジネスのトレンドの見通しをポイントで整理しています。よく、「Jリーグは向上しているが、ヨーロッパはより進歩している」という話を聞いたりしますが、マネジメントの面でも同じようなことを考えさせられます。

デロイトは、2020/21シーズンにおけるコロナ禍のインパクトを以下の3点に整理しています。

  1. ファンがスタジアムに戻ってくるタイミングとどのように帰ってくるかには様々なシナリオがある
  2. 放送局とスポンサー等は、スポーツへのファンや消費者の相互交流の結果、経済的な試練に直面する
  3. クラブは、政府がスポーツイベントに対する方針を示すまで、試合開催収入が見通せない

ここで一つ確認できることは、Jリーグは3点目をクリアしていることです。これは我らがガースー政府の政策の賜物か、Jリーグの努力と交渉によるものかと思いますが、多分後者だと思います。ヨーロッパと比べると我々はまだ恵まれています。

いずれにせよ、各クラブは当然ながらクラブは収入確保をなんとか成し遂げなければなりません。

まず、スポンサー収入ですが、大会主催者、ナショナルチームなどの大きな収入の一つですが、2019-20シーズンはなんとか大会をやりとげ、商業上の義務や合意に対する不履行を回避し、スポンサー収入を確保できたものの、長期的にスポンサー等の姿勢は未だ見通しにくいとしています。なお、プレミアリーグでのスポンサー収入は全体の収入の28%です。なお、Jリーグでは、J1が45%、J2では56%、J3では55%を占め、Jリーグでのインタビューにおける「ファン・サポーター、スポンサーの皆様」というくだりの、「スポンサー」という一句は欠かせないことが分かります。

そして、入場料収入はクラブの収入源のひとつですが、コロナ禍の財政的なインパクトはまだ実感されていないものの、市場のより小さい国のクラブや、下部リーグへの影響は大きいとデロイトは見ています。

その理由は、市場規模が相対的に小さいクラブ、そして下部リーグのクラブは一般に試合開催収入により依存しているためです。記事によると、プレミアリーグの試合開催収入は、その他の収入源カテゴリと比べ最も小さな比率を占めます(2018/19シーズンで13%)。一方で、他のリーグではより影響は大きいと見ています。例えば、チャンピオンシップのそれは21%です。そして、5大リーグ以外だと、例えばスコットランド1部のそれは47%です。

そして、我らがJリーグでは、J1が19%、J2が12%、J3が7%でした。少なくともプレミアリーグとJリーグではビジネスの構造が異なるようですね。

それでは、各ポイントをみてみましょう。

トレンドとコロナ禍のインパクト

「本当のスポンサーシップ」を求める動きは強まる

同記事によると、企業はクラブのブランドに更なる繋がりを求める一方で、データに裏打ちされたデジタルマーケティングプラットフォームやパートナーシップに価値を見出しています。

要は、厳しい経済環境において、スポンサーはより効率的なマーケティング効果を求めているということです。マーケティング戦略としては、小規模な金額でも展開できるコスト効率の高いデジタル分野が軸となります。これは、デジタル技術の発展に加え、この経済環境であまり確保できる予算がないこともあるでしょう。

そして、クラブというブランドは大前提のもと、サポーターの奥深くまで食い込み、サポーターそれぞれはどのような人なのか、どの人口統計学的なセグメントに集中しているのか、どういったチャネルで、どのようにクラブと接点を有するのか、マーケティングキャンペーンの実証できるインパクトは何なのかなどのマーケティングの根拠となるデータを有するクラブが、スポンサーマーケットの中で優位に立てるとしています。

ファン層の多様化は引き続き進む

記事では、2019-20シーズンに先んじて、多くのサッカークラブは、海外のファン層の開拓や、2000年から2010年までに産まれたいわゆるジェネレーションZをより理解することに積極的に取り組むことも含め、ファンベースの多様化に注力していました。

これは引き続き重要なテーマとなるものの、一方で、目先はコロナ禍により入場料収入が見込めないので、クラブは特にシーズンチケットフォルダーやハードコアなファンなどより現状のファンベースに注力するとしています。

コロナ禍のインパクトのため、どのように人々の習慣や行動様式が変わっていくのかを理解するため、データが重要な役割を果たすだろうとデロイトはみています。ゲームを超えた経験や相互交流が今や求められ、かつ直接の体験することが難しい現在の状況にあっては、データが豊富であるほど、ファンの経験やファンに対して迫ることができるという主旨が述べられています。

恐らく、Jリーグに照らして考えると、状況は似ていると思います。短期的には収入を増やす、そして資本を増強し、クラブの存続基盤をしっかりとしたものにすることをまず優先。その後ファン層の拡大の流れを続けるということです。欧州リーグも国際展開は継続するので、Jリーグでは東南アジアへの展開を止めてしまうと、より欧州リーグとの経営面の差は開いていきそうです。

また、Jリーグの問題の一つとしてファンの高齢化がありますが、私の不勉強のためかもしれませんが、デジタルを通じた若者へのアプローチにJリーグにおける強い印象はありません。当然ながら、Jリーグとしても必要性は理解しているのだろうと推察していますが、協力な推進が期待されます。

なお、記事では「リーグとクラブは」という記載になっているところがポイントです。本記事のテーマはデジタルマーケティングと理解しますが、恐らくJリーグのクラブ単位では、一部を除いて「マーケティング」という概念でスポンサーとの関係を考えていないクラブが多いのかなあという感覚があります。恐らく、従来の広告を獲ってくる「営業」ではなく、「マーケティング」としてファンやその他の多数の人々への訴求をスポンサーも含めて考えることが必要とされているのだと思います。恐らくその意識が変わったところで、クラブは企業として一段成長するのでしょう。

コンテンツ戦略は変わらない

記事によると、ロックダウンの間、多くのクラブでみられる共通の傾向が、デジタルプラットフォームのアーカイブとしての活用です。マンチェスターユナイテッドでは、有名な試合、有名なゴールへの「振り返り」として、インスタグラム、ツイッター、フェイスブックにアップロードしています。
ブンデスリーガはメディアアーカイブをアマゾン ウェブ サービスとクラウドベースのメディアアーカイブを構築しているそうです。そして、そのアーカイブは15万時間のビデオから、ゲーム、ユニフォーム、プレーヤー、そして会場などで特定のフレームを自動的にタグ付けしており、見たい試合のハイライトに素早くたどり着くことができます。

これはJリーグも是非やってもらいたいです。私は、フリューゲルスのエドゥー、ストイコビッチ、それからシジマールのプレーを改めて見たいです。また、これがあればカズは今よりリスペクトを受けるのではと思います。

更に、ウェブストリーミングの可能性についても触れられています。プレミアリーグは、2019-20シーズンの再開時、92試合の残り試合の放映権をSky、BT Sport、Amazon、及びBBCに分配し、無料で放送し、アマゾンによる放映が無事なされたことで、長期的に放映の秩序を壊すだろうと述べられています。DAZNの経営危機が報道されていますが、仮にDAZNが破綻しても、時代に求められているものとして引き継ぐところは出てくるのではないでしょうか。

個人体験

スタジアム体験は加速する

コロナ禍が終わった後のスタジアム体験における、デジタル技術の果たす役割についても触れられています。

スタジアム体験において、ファンが長い間スタジアムにとどまりたいと思うかはとても重要なポイントです。それにより、ファンにもっと長い時間スタジアム近辺に留まってもらい、消費を増やしてもらい、また来てもらうということが重要です。このために、容易に座る場所を見つけることが出来、グッズ、食べ物、及び飲み物などの買い物をストレスなく出来るスタジアムの環境を作り出すことが寄与するものと見込んでいます。

また、ソーシャルディスタンスの要請による不都合を補うためにも、デジタル技術の利用に拍車が掛かると見られます。チケットサービス、駐車場、及びキャッシュレスサービスなどでコンタクトレス技術を利用することが考えられます。また、列に並ぶ時間を計測し、適正化したり、または席への配達などに使われることもありそうです。

家庭体験も加速する

家庭でのライブ体験もより発展するものと見られています。他のスポーツですが、テニスのシュローダー バトルオブブリッツトーナメントでは、コートチェンジの際にヘッドセットをつけてコメンテーターと選手が話すというものがあったそうです。

また、友達と一緒に試合観戦の擬似体験する実験も進められている模様です。どんな事例があるのかなと検索してみたら、日本に面白い事例がありました。横浜ベイスターズです。KDDIの協力により、横浜スタジアムにバーチャルに観戦に訪れることができるという実験があったそうです。これもJリーグでやってもらいたいですね。

なお、これらの試みはクラブが著作権上の権限を有することが前提になると書かれています。

新しいトレンド。新しい収益を生むイノベーション

試合開催がない可能性を勘案すると、試合開催以外の収入に力を入れる動きに拍車がかかるかもしれません。コロナは新アイデアとイノベーションのきっかけとなります。

デロイトのデジタルメディアトレンドサーベイによると、コロナ前の時点で25%の消費者が録画や他のビデオゲームズを毎週見ているそうです。ミレニアムやジェネレーションZであれば50%です。コロナ禍が始まってからも、ハウツーもののビデオ、ゲームのリアルタイム放映、プロゲーマー、アスリートによる競技のライブ放映、そしてeスポーツの大会など、変わらず人気があります。

更に、プレミアリーグは、ロックダウンの間にeプレミアリーグを立ち上げました。ニールセンスポーツによると、アレクサンダーアーノルドとディオゴ ジョッタによる決勝は、フェイスブックで300万人、youtubeで394,000人の視聴者を集めました。視聴率は開幕戦からファイナルにかけて275%上昇した。このようなビデオゲームの中で、プレーし、視聴し、交流をすることは、ロックダウンが緩和しても広がっていくと見られます。

ロックダウン中、サッカークラブはファンベースと広範囲なコミュニティをニューノーマルに適応させることを促すためにクラブのブランドを使いました。例えば、プレミアリーグやトッテナムは、それぞれ”Premier League’s Primary Stars” と”School of Spurs“という子供の自宅学習のためのプログラムを立ち上げました。リバプールのコンディショニングコーチによる”LFC Home Workouts“やナイキとのコラボレーションである “Chelsea’s 20 minute videos”を配信しています。特に、前者はシリーズ化して何本も投稿されています。

自宅学習のプログラムは良いと思います。緊急事態宣言中、内田篤人さんは「子供は勉強しなさい」と言っていました。

ワークアウトの動画などは、昨年の緊急事態宣言中、Jリーグのチームからの配信があったような気もしますが、ここで紹介されている事例はさらに企画として練り込んであります。

まとめ

コロナ禍の破壊的なインパクトはビジネスモデルの再評価とデジタルトランスフォーメーションのニーズを如実にしました。

お手本はビジネスの世界にあるとデロイトは記しています。そして、アマゾンやネットフリックスなどの成功事例、データ、顧客を知ること、そして彼らにどのように照準を合わせるかが、先述の各項のポイントです。ファン層や彼らのそれぞれの個性を理解することにより、スタジアム体験と家庭体験を最もうまく発展させる方法をクラブは理解し、他の収益源を開拓することにつながるだろうとしています。

それを踏まえてJリーグはどうかと考えると、Jリーグのクラブは「地域のため」や「夢」など、理念が重視され発展してきた側面は大きいと思います。しかしながら、コロナ禍という厳しい経済環境の中、お金を稼ぐため、一般企業が戦う土俵に引きずり出された印象です。しかしながら、すでに世界のクラブはかねてからその前提で運営されており、Jリーグクラブにも現実的な目線が加わることにより、一企業としてのクラブの成長につながると考えています。

そして、確かにデロイトの言うように、デジタル分野がコロナのインパクトに対する突破口になると思います。恐らく、各クラブは余裕がなく手が回らないと言うのが実情な気がしますが、テック系企業を親会社として有する鹿島、川崎、町田あたりから面白い試みが始まればいいなと思っています。

 

 

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