財務的にも成長を遂げた”リバプールのクロップ時代”

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クロップの退任及び戦績

ユルゲン・クロップの公のメッセージは、サッカー界に衝撃を与えました。彼はシーズン終了時にリバプールFCからの退任を発表しました。さらに、少なくとも1年間は他のチームの監督職を引き受けない計画も明らかにしました。クロップは2015年10月にチームの指揮を執り、UEFAチャンピオンズリーグとイングリッシュプレミアリーグを含む重要な成功を収めました。クロップは間違いなくチームの競技面での成長に大きく貢献しましたが、リバプールは彼の在任中にビジネスと財務の分野でも驚異的な進歩を遂げています。クロップ時代を通じたクラブのビジネスと財務の成果について、Football Benchmarkが掘り下げているので取り上げたいと思います。なお、以下登場する日本円の金額は、1ユーロ160円で換算しています。

ユルゲン・クロップ就任の5年前、フェンウェイスポーツグループ(FSG)は2010年10月15日にアメリカ人の前オーナー、ジョージ・ギレットとトム・ヒックスから55.2十億円でリバプールFCを取得しました。新オーナーシップの最初の5年間におけるロイ・ホジソン、ケニー・ダルグリッシュ、及びブレンダン・ロジャースが指揮を取ったシーズンでは大きな成功を収められなかった結果、2015年10月8日にFSGはユルゲン・クロップを新監督に任命しました。2024年になり、クラブは彼の指揮のもとで7つのタイトルを獲得し、2023/2024シーズンにおいてもすべての大会で競り合っています。さらに、クロップはクラブの歴史で最も高い勝率を記録しています(467試合で60.81%)

クロップ就任後のリバプールの成績

(出所:フットボールベンチマークから当ブログ作成)

クロップの就任前、リバプールは1989/90シーズンにイングリッシュファーストディビジョン、2004/05シーズンにUEFAチャンピオンズリーグ、2005/06シーズンにFAカップを獲得し、2005年のUEFAスーパーカップが最後のタイトルでした。クロップの最初の3シーズンではリバプールは3つのカップ戦決勝に出場したものの、最初のトロフィーについては2018/2019シーズンまで待たなければなりませんでした。クロップ就任前の6シーズンでは、リバプールはリーグで1度だけトップ5に入りました。一方、クロップ就任後の7シーズン目までリバプールは6位以下で終えたことはありませんし、2023/24シーズンもTOP5以内で終える可能性が高そうです。
しかしながら、同時に8つの「銀メダル」は不運を浮き彫りにするものという意見もあります。プレミアリーグでマンチェスターシティにわずか1ポイント差で2度敗れ、コミュニティシールドでも2度ペナルティで敗れ、2度のチャンピオンズリーグ決勝でレアル・マドリードに敗れました。確かに結構なシルバーコレクターともいえるかもしれません。

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リバプールの移籍金収支

移籍金収支

(出所:フットボールベンチマークから当ブログ作成)

先述の通り、多くのタイトルを獲得してきたクロップ時代のリバプールですが、適切なチーム構築があってこそです。2015年から、クロップはFSGの社長であるマイク・ゴードンとスポーツディレクターであるマイケル・エドワーズと緊密に連携し、意思決定の責任を共有していました。この協力関係は、エドワーズがクラブを離れクロップがチームに対しより影響力を持ち始めた2021年まで続きました。
クロップの在任中、リバプールは選手の売却から93.4十億円を稼ぎながら、移籍金に148.5十億円を費やしました。結果、クロップ時代の総移籍金の赤字は54.9十億円となりました。この赤字がどのようなものなのかイメージをつきやすくするためライバルであるペップ・グアルディオラのマンチェスター・シティと比較すると、マンチェスター・シティは移籍金に240.8十億円を費やし、選手の退団で111.0十億円を回収しました。2015/16シーズン以降、1億ユーロ(16十億円)を超える移籍金を支出したのは2度だけで、3シーズンで黒字を計上しています。

一方、リバプールが移籍金支出で1億ユーロ(16十億円)を超えたのは4度だけでした。対照的に、マンチェスター・シティが選手獲得に費やした金額が1ユーロを下回ったのは、過去8シーズンで1度だけでした(2018/19シーズンは7900万ユーロ)。

リバプールの選手たちが過去9年間でどのように進化したかを理解するためのものとして、Football Benchmarkは2015/16シーズンのクラブの集計された選手の価値を現在のシーズンと比較しています。クロップの就任年には、選手の価値は60.0十億円でしたが、2024年1月時点でFootball Benchmarkの選手評価プラットフォームによれば、現在は162.2十億円に達しています。現在のリバプールチームは「10億(ユーロ)クラブ」の一部であり、マンチェスターシティ、アーセナル、パリ・サンジェルマン、レアル・マドリード、チェルシー、バイエルン・ミュンヘンに次ぐ世界で7番目に価値のあるチームとされています。

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営業収益の拡大を支える大規模投資

フェンウェイ・スポーツ・グループ・ホールディングス(FSG)がリバプールFCを取得したあと、大規模な投資はサッカーチームの強化だけでなく、クラブの他の側面にも拡大されました。

うち一つの大きなプロジェクトは、アンフィールドスタジアムのメインスタンドの拡張です。例えば、新しい第3ティア座席の追加、その他スタジアム施設のさらなる充実、コーポレートアメニティー(企業のゲスト、スポンサー、またはプレミアムチケット保持者に提供される施設やサービス)などです。この拡張により、8,500の新しい座席が追加され、スタジアムの収容人数が54,742人に増加しました。

2017/18シーズン初めに1800平方メートルのクラブスーパーストアをオープンしました。新しい店舗とスタジアムの間のエリアは「ファンゾーン」に変わり、新しい飲食店と試合前のエンターテインメントが提供されています。スタジアム改修の第2フェーズでは、アンフィールドロードエンドスタンドに7000席が追加され、総収容人数は61,000人を超えます。

これらの投資、フィールドでの好成績、そして商業的な取り組みの結果、クロップ就任期間のリバプールの収益は大幅に増加しました。例えば、2016/17から2021/22までの期間、リバプールはUEFAの大会の収益だけで、同期間において、全クラブのうち7番目に多い金額となる77.4十億円を獲得します。同期間において、クラブの営業収益のうち最も伸びた項目は、チャンピオンズリーグとプレミアリーグに係る放送収入です。商業収入も2015/16シーズンから2021/22シーズンまでに倍増し、2023年には、スタンダード・チャータードのシーズンごとの主要シャツスポンサー契約(9.2十億円)、AXAのシーズンごとの主要スポンサー契約(4.4十億円)、およびExpediaとのシーズンごとのスリーブスポンサー契約(2.8十億円) の契約が開始し、さらなる成長が見込まれています。

リバプールFC 営業収益(売上高)の推移

(出所:フットボールベンチマークから当ブログ作成)

フェンウェイ・スポーツ・グループとは

フェンウェイ・スポーツ・グループ・ホールディングスは、NASCARのRFKレーシング、メジャーリーグのボストン・レッドソックス、プレミアリーグのリバプールF.C.、ナショナル・ホッケーリーグのピッツバーグ・ペンギンズ、TMRWゴルフリーグのボストン・コモン・ゴルフを所有するアメリカの多国籍スポーツホールディング・コングロマリットです。
FSGは2001年、ジョン・W・ヘンリーがトム・ワーナー、レス・オッテン、ニューヨーク・タイムズ・カンパニー、その他の投資家と手を組み、レッドソックスの入札に成功した際に、ニューイングランド・スポーツ・ベンチャーズ(NESV)として設立されましたが、2011年3月にフェンウェイ・スポーツ・グループへの社名変更を正式に発表しました。法人はボストンを拠点とし、メジャーリーグのレッドソックス、リバプール、アイスホッケーのペンギンズの所有に加え、レッドソックス(フェンウェイ・パーク)とリバプール(アンフィールド)のホームスタジアム、フェンウェイ・スポーツ・マネジメント(フェンウェイ・スポーツ・マネジメントはマイナーリーグのセーラム・レッドソックスを所有)、ニューイングランド・スポーツ・ネットワーク(NESN)の80%も所有しています。FSGは洗練された国際的なスポーツコングロマリットとして成功したことで高い評価を得ています。2021年、FSGは他の11のサッカークラブのオーナーグループとともに欧州スーパーリーグを創設しようとしたクラブの一つで、論争の結果、オーナーの一人であるジョン・W・ヘンリーは後に謝罪文を発表しています。

人件費をうまくコントロール

リバプールFC 人件費と人件費率の推移

(出所:フットボールベンチマークから当ブログ作成)

ユルゲン・クロップの在任初年度を見ると、スタッフコストと総収益の比率は彼の在任期間中で最も高く、69.2%を超えていました。しかし、クロップ就任期間のうち、2017年から2019年にかけて2度連続でチャンピオンズリーグ決勝に進出し、両シーズンとも59%未満の比率で成功を収めました。クロップ時代を通じて、リバプールはUEFAフィナンシャルフェアプレーの推奨閾値である70%を超えることはありませんでした。
リバプールが2018/2019シーズンにチャンピオンズリーグを制覇した際、スタッフコストは56.2十億円で、決勝戦の対戦相手のトッテナムのスタッフコスト36.3十億円よりも大幅に高いものでした。2019/20シーズンには、リバプールがプレミアリーグのタイトルを獲得した際、クラブのスタッフコストは59.3十億円に上昇し、準優勝のマンチェスターシティのスタッフコスト64.0十億円と同程度でした。

純利益

2015/16から2021/22までの期間、リバプールは合計で12.8十億円の純利益を確保しましたが、これらの7シーズンのうち、クラブは3シーズンだけで利益を記録することができました。クロップ時代の完全な財務状況は、2022/23および2023/24の公式財務報告書が発表されてから初めて総括できますが、これまで累計で一定の純利益を生み出していることは評価されるところです。

リバプールFC 純利益の推移

(出所:フットボールベンチマークから当ブログ作成)

フォロワー数も大幅に増加

財務面を超えて、クラブのブランディングも近年大きな発展を遂げています。2015年初めから現在まで、リバプールFCの公式Instagramアカウントのフォロワー数は4000万人以上増加しています。現在、クラブはFacebook、Instagram、TikTok、X、YouTube、Weiboの合計フォロワー数が1397百万人で、世界のサッカークラブの中で8番目に多い数字です。レッズは、バイエルン・ミュンヘン、アーセナル、トッテナム、ACミラン、アトレティコ・マドリードなど、多くのクラブよりもソーシャルメディアで多くのフォロワーを誇っています。

リバプールFC フォロワー数の推移

(出所:フットボールベンチマーク)

企業価値

リバプールFCのクロップ時代をより明確に示すものは、2016年から2023年までのFootball Benchmarkが試算したクラブの企業価値(EV ※EV= 時価総額 + 有利子負債 – 現金及び預金)の変遷です。ドイツ人監督の指導のもと、クラブはEVを3倍以上に増やしました。2016年には、リバプールはFootball Benchmarkのリストで203.7十億円の評価で8位を獲得していました。しかし、2023年には、クラブは624.0十億円の評価で4位に急上昇しました 。

リバプールFC EV(エンタープライズバリュー)の推移

(出所:フットボールベンチマークから当ブログ作成)

クロップの就任期間は、リバプールFCの歴史の中で最も象徴的な期間の一つとして確実に記憶される事となると思われます。またこの期間の成果は、ファン、選手、バックルームスタッフ、オーナーを含むクラブ全体の共同の成果とも言えます。また、こうした成果は一定の財務規律を守った上に成し遂げられたものです。
クロップ退任に伴い、リバプールとそのオーナーは、今や困難な課題に直面しています。クロップのバックルームスタッフのメンバーや、昨年雇われたスポーツディレクターのヨルグ・シュマットケなど最近の成功に貢献した多くの重要な人材が最近退職したり、近々退職するとみられています。彼らは有能な後任監督だけでなく、スタッフ全体を再構築するチャレンジに取り組まなければなりません。

 

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