レッドブル・グループによるサッカークラブ買収戦略とその効果

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レッドブル・グループによるサッカークラブ買収

レッドブルと言えば、世界的に有名なエナジードリンクを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、その事業範囲は飲料業界に留まらず、スポーツ界においても戦略的かつ重要なプレゼンスを確立しています。特に、プロサッカーへの積極的な投資は、レッドブル・グループのマーケティング戦略の中核をなし、世界各地で複数のサッカークラブを傘下に収めています。本稿では、経営と財務の視点から、レッドブル・グループによるサッカークラブ買収の効果について詳細に分析します。

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レッドブル・グループの概要:エナジードリンクを超えたグローバルブランド

レッドブルGmbHは、単なるエナジードリンク会社としてだけでなく、その革新的なマーケティング戦略の中心にスポーツを据えるグローバルブランドとして広く認知されています。フォーミュラ1(レッドブル・レーシング、アルファタウリ)、アイスホッケー(ECレッドブル・ザルツブルク、EHCレッドブル・ミュンヘン)、そして多様なエクストリームスポーツに至るまで、広範なスポーツ投資ポートフォリオを有しており、スポーツを活用したブランド構築モデルを確立しています。この戦略の根底には、スポーツを通じてブランド認知度を高め、特に若者やアクティブな層といった特定のターゲット層との結びつきを強化するという目的があります。

レッドブルがプロサッカー界への参入を果たしたのは2005年、SVアウストリア・ザルツブルクの買収であり、これが現在では広範なサッカーネットワークの基盤となりました。同社のサッカーへの投資は、単なる慈善活動ではなく、グローバルなマーケティング戦略の計算された拡張であり、スポーツチームの所有を通じてブランドの可視性を高め、ターゲット層にリーチし、製品販売を促進することを目的としています。レッドブルは、多岐にわたる著名なスポーツへの関与、および多額のマーケティング予算 を有しており、サッカーへの参入はこの広範なブランドプロモーションと市場浸透の文脈で捉えられるべきです。

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レッドブル・グループがサッカークラブを買収する目的:グローバル戦略の中核

レッドブル・グループがサッカークラブを買収する主な目的は、以下の点が挙げられます。

ブランド認知度の向上とグローバルリーチの拡大

サッカーは世界中で非常に人気のあるスポーツであり、サッカークラブの所有は、レッドブルのブランドを世界中の幅広い観客に露出させるための強力な手段となります。特に、若者やアクティブな層といったターゲット層へのリーチを強化することができます。

マーケティングプラットフォームの構築

サッカークラブは、試合やイベントを通じて、レッドブル製品のプロモーションやブランド体験を提供する独自のプラットフォームとなります。スタジアムの命名権、ユニフォームスポンサーシップなどを活用し、ブランドイメージを浸透させることが可能です。

潜在的な収益性の高い資産の育成

成功したサッカークラブは、選手育成や移籍、チケット販売、スポンサーシップなど、多様な収益源を持つ可能性があります。レッドブルは、これらの収益源を育成し、長期的に価値のある資産を築くことを目指しています。

グローバルな選手育成ネットワークの構築

複数のクラブを所有することで、レッドブルはグローバルな選手育成ネットワークを構築し、有望な若手選手を発掘・育成し、グループ内の適切なクラブへとステップアップさせるシステムを構築することができます。

一貫したプレースタイルの導入とブランドイメージの統一

レッドブルは、傘下のすべてのクラブに共通のプレースタイル(高強度で攻撃的なサッカー)を導入し、ブランドイメージを統一することで、グループ全体の相乗効果を高めることを目指しています。

レッドブルは、異なる国々にまたがるサッカークラブのネットワークを活用し、選手育成、リソース共有、そして一貫したプレースタイルの導入を推進するマルチクラブオーナーシップ(MCO)モデルを採用しています。このネットワークにおいて、RBライプツィヒはしばしば旗艦クラブとしての役割を担い、下部組織で育成された若手選手がより高いレベルでの競争機会を得るための最終的なステップとなっています。

買収時の事例分析:それぞれの戦略と背景

レッドブルは、それぞれの地域や市場の状況に合わせて、異なるアプローチでサッカークラブの買収や設立を行ってきました。以下にいくつかの主要な事例を分析します。

RBライプツィヒ:5部リーグからの挑戦と50+1ルールへの対応

レッドブルは当初、ドイツの強固なフットボール文化と大規模なファンベースに魅力を感じ、既存のクラブへの投資を検討しました。FCザクセン・ライプツィヒ、FCザンクトパウリ、フォルトゥナ・デュッセルドルフといったクラブとの交渉を試みましたが、伝統的なクラブとそのファンからの企業による買収やクラブのアイデンティティの変化に対する強い抵抗に直面し、失敗に終わりました。特に、ドイツのフットボールクラブの所有構造を規定する50+1ルールは、外部の企業がクラブの支配権を獲得することを難しくしており、レッドブルの投資戦略にとって大きな課題となりました。

この規制を回避するため、レッドブルは既存のクラブへの投資を諦め、2009年に当時ドイツ5部リーグに所属していたSSVマルクランシュテットの試合出場権を買収し、RBライプツィヒを創設するという戦略を採用しました。ゼロからクラブを設立することで、レッドブルは既存のクラブの歴史、ファン、そして厳格な所有権ルールといった制約を受けることなく、自社のビジョンを全面的に実現することが可能になったのです。クラブの名称は「RasenBallsport Leipzig e.V.」(芝生球技ライプツィヒe.V.)とされ、「RB」はレッドブルの頭文字を巧妙に隠蔽しており、ドイツのリーグ規定を遵守しながら、ブランドの関連性を維持する意図が示唆されています。また、クラブの会員制度は、投票権を持つ会員数を制限し、主にレッドブルの関係者で構成されるように設計されており、これにより、企業によるクラブの支配が間接的に確保される仕組みとなっています。

レッドブルは、クラブの迅速な昇格を実現するために、当初から多額の資金を投入することを約束し、若く才能ある選手を積極的に獲得する戦略を採用しました。その結果、RBライプツィヒは目覚ましいスピードで成長を遂げ、2009年の5部リーグからのスタート後、わずか7年でブンデスリーガへの昇格を果たしました。

FCレッドブル・ザルツブルク:伝統あるクラブの変革とブランド再構築

レッドブルが最初にサッカークラブを買収したのは、本拠地オーストリアのSVアウストリア・ザルツブルクでした。買収は2005年に行われましたが、当時クラブは財政的に苦戦していました。レッドブルは買収後、クラブ名をFCレッドブル・ザルツブルクに変更し、伝統的な紫と白のカラーを、現在では象徴的な赤と白に変更するなど、徹底的なブランド再構築を行いました。このブランド変更は、クラブの歴史とアイデンティティを重視するファンから強い反発を受けましたが、レッドブルは一貫してグローバルブランドとの連携を強化する戦略を推し進めました。

レッドブルによる買収以降、FCレッドブル・ザルツブルクはオーストリア・ブンデスリーガにおいて圧倒的な強さを誇り、多くのタイトルを獲得しています。また、UEFAチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグにも常連として出場し、ヨーロッパの舞台での競争力も向上させています。

ニューヨーク・レッドブルズ:MLS市場への参入とインフラ投資

2006年、レッドブルはメジャーリーグサッカー(MLS)のオリジナルチームの一つであったメトロスターズを買収し、ニューヨーク・レッドブルズと改称しました。当時のMLSは発展途上のリーグであり、メトロスターズも主要なタイトル獲得には至らず、財政的にも安定しているとは言えない状況でした。レッドブルは買収にあたり、3000万ドルの買収費用に加え、新たなスタジアム(レッドブル・アレーナ)の建設など、多額の投資を行うことを約束しました。

レッドブルの財政支援により、ニューヨーク・レッドブルズは施設やチームのインフラを大幅に改善し、MLSカップ決勝進出やサポーターズ・シールド獲得など、買収前に比べて成績を向上させています。また、クラブのブランド価値も大幅に向上しており、2024年にはフォーブスによって5億6000万ドルと評価されています。

レッドブル・ブラガンチーノ:ブラジル市場での戦略的提携とブランド統合

レッドブルは、南米市場への足がかりとして、ブラジルのサッカークラブへの関与も進めてきました。当初はRBブラジルという独自のクラブを設立しましたが,2019年には、歴史とファンベースを持つクルーベ・アトレチコ・ブラガンチーノと提携しました。レッドブルはブラガンチーノのサッカー関連資産の経営権を取得し,2020年にはクラブ名をRBブラガンチーノに変更しました。

レッドブルによる財政支援と経営ノウハウの導入により、RBブラガンチーノはブラジル全国選手権セリエBで優勝しセリエAに昇格するなど、目覚ましい成績を収めています。また、コパ・スダメリカーナで準優勝するなど、南米の舞台でも存在感を示しています。この事例は、レッドブルが必ずしもゼロからクラブを創設するのではなく、既存のクラブと戦略的に提携し、ブランド統合を図る柔軟なアプローチを採用することを示しています。

レッドブル・ガーナとRBブラジル:戦略の転換と再評価

一方で、レッドブルのサッカークラブ買収戦略が常に成功しているわけではありません。レッドブル・ガーナ(2008年設立、2014年解散)とRBブラジル(2007年設立、後にRBブラガンチーノIIとして再編)は、その代表的な例と言えるでしょう。

レッドブル・ガーナは、ガーナの2部リーグにまで昇格しましたが、その後成績が低迷し、2013年には3部リーグに降格しました。2014年には、レッドブルはアカデミーとクラブを閉鎖し、フェイエノールト・アカデミーと合併して西アフリカ・フットボール・アカデミー(WAFA)を設立しました。この決断は、ガーナにおける才能育成戦略において、レッドブルが直接的な所有からパートナーシップモデルへと移行したことを示唆しています。

RBブラジルは、サンパウロ州リーグでは一定の成功を収めましたが、ブラジル全国リーグのトップリーグであるセリエAへの昇格を果たすことはできませんでした。2019年にはクルーベ・アトレチコ・ブラガンチーノと提携し、RBブラジルはレッドブル・ブラガンチーノのリザーブチーム(レッドブル・ブラガンチーノII)として再編されました。その後、2024年にはサンパウロ州サッカー連盟の大会からの撤退を発表しており、事実上の解散となる見込みです。これらの事例は、レッドブルがグローバルなサッカー事業において、画一的なアプローチではなく、各地域の特性や状況に合わせて柔軟に戦略を適応させていることを示しています。

RB大宮アルディージャ:日本市場への新たな挑戦

そして、2024年、レッドブル・グループは日本のJリーグクラブ、大宮アルディージャを買収し、2025シーズンからRB大宮アルディージャとして新たなスタートを切ることが発表されました。大宮アルディージャは、J1とJ2の間を昇降格を繰り返してきた歴史のあるクラブですが、近年は成績が低迷し、2023年にはJ3に降格していました。レッドブルによる買収は、アジア市場への戦略的な進出と、日本の才能ある選手の発掘を目的としていると考えられます。

買収後最初のシーズンとなった2024シーズン、RB大宮アルディージャはJ3リーグで優勝し、1年でのJ2復帰を達成しました。2025シーズンはJ2リーグで開幕を迎えましたが、序盤から好成績を収め、現在J2リーグの首位に位置しています。この初期の成功は、レッドブルの関与が早くも好影響を与えた可能性を示唆しており、今後の更なる成績向上が期待されます。

買収したクラブへの支援内容

レッドブルが買収したサッカークラブに対して行う支援は多岐にわたります。

投資

クラブの急速な成長と成功を確実にするために、設立当初から資金を惜しみなく投入します。これには、選手の獲得費用、スタジアムやトレーニング施設の改修・建設費用、ユースアカデミーの運営費用などが含まれます。

選手獲得と育成戦略

若く才能ある選手を積極的に獲得し、育成する戦略を採用します。確立されたスター選手よりも、23歳以下のポテンシャルの高い若手選手に焦点を当て、彼らを育成してトップレベルの選手へと成長させることを目指します。また、ユースアカデミーの育成をクラブの核となる戦略の一つとして重視し、最先端のトレーニング施設を整備し、すべての年齢層で一貫したプレースタイルを導入することで、アカデミーの選手がトップチームへスムーズに移行できるような環境を整備しています。

グローバルなスカウトネットワークの活用

レッドブルのグローバルなスカウトネットワークは、傘下のクラブにとって大きなアドバンテージとなります。世界中に広がるスカウト組織を通じて、有望な若手選手を早期に発見し、獲得することができます。このネットワークは、レッドブルが所有する他のクラブとも連携しており、グループ全体で選手情報を共有し、最適な育成プランを実行する体制が構築されています。

経営ノウハウと戦略的ビジョン

明確な長期目標と戦略的計画を持ち、それを実行するためのプロフェッショナルな経営体制を導入します。

マーケティングとブランディングの支援

グローバルブランドであるレッドブルのブランド力を活用し、クラブの認知度とリーチを拡大します。統一されたブランドアイデンティティ(チームカラー、ロゴ、ニックネーム、スタジアム名など)を実施し、レッドブルのエナジードリンクのグローバルなブランド認知度とマーケティング機会を最大化します。

グループ内の連携とリソース共有

レッドブルが所有する他のクラブとの間の選手移籍や連携は、傘下クラブの成長に大きく貢献します。若手選手は自身のレベルに合ったクラブで経験を積み、成長してからより上位のクラブへとステップアップすることができます。また、コーチング哲学やトレーニング方法の共有、人事、財務、マーケティングなどのリソース共有も、グループ全体の効率性を高めます。

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