前回投稿の通り、第2回Jリーグ臨時理事会においてビジョン2030及び2022年中期事業計画の凍結が決まりました。
もちろん現状は全てのチームの存続が優先ですが、これが痛恨の極みです。
ビジョン2030と中期計画
Jリーグは4年ごとに「プロジェクト20●●」という長期目標を設定しています。その長期目標を達成するための足下4年間の中期計画を同時に作成します。この長期計画と中期計画のセットを4年ごとに策定しており、そして、現在走っているのが長期計画であるビジョン2030であり、中期計画2022です。
現在走っている長期計画であるビジョン2030は定量的目標として、J1全試合満員(来場可能数の80%以上)を達成することを掲げています。
そのための要素として、以下の5つを満たすことを目指しています。
<カテゴリ> | <目指す状態> |
社会連携 | 想いを共有し、仲間のチカラを借りて地域とクラブのつながりと笑顔を増やす |
フットボール | 日本型人材育成システムで世界の5大リーグに名を連ねる |
ファン | 熱狂のスタジアム、国内最高のエンターテイメントへ |
事業強化 | 事業の選択肢を増やし、Jリーグの多様な価値をマネタイズする |
経営基盤 | 自律的な経営と人材育成で地域に愛される存在となる |
リーグの発展という観点で見ると、どのカテゴリも重要です。どれかが劣後するとアンバランスな発展となるでしょう(例えば中国のリーグなどは現状そうであると思います)。
その中で、今現在Jリーグを見て楽しんでいる私とすれば、この5大カテゴリの中で、「フットボール」に関心があるのですが、その重要なポイントが上表の通り人材育成です。
Jリーグが考える人材育成の課題と戦略
プロジェクト中核人材をイングランドより招聘
今般の中期経営計画における人材育成の第一の柱は「Project DNA」です。
このプロジェクト実施のため、イングランドからテリー・ウェストリー氏をJリーグフットボール本部テクニカルダイレクター・コンサルタントとして、アダム・レイムズ氏を同フットボール企画戦略ダイレクターとして招聘しています。
ウェストリー氏は指導歴37年の実績を有し、イングランドのウェストハムの監督や、その他複数クラブでアカデミーダイレクターなどの経歴がある方で、総額285億円以上の利益をクラブにもたらしました。更に、プレミアリーグにおいて、育成改革プラン(EPPPというプログラム)の設計・発動なども行ってきた方です。
レイムズ氏はニューカッスル大学で法学士号を取得。ウェストハムにてアカデミー運営責任者を務め、毎シーズン約22億円の移籍収入を還元。また、プレミアリーグのクラブ監査に関するコンセプトの構築や選手育成データベースの開発に取り組んできた方です。
人材育成の課題設定
このお二方を招いての人材育成の課題として、①指導者の成長促進、②アカデミーの体系的な成長促進、③ユース年代での試合機会の断絶の解消、を認識し、プログラムを組んでいます。
指導者の成長促進
Project DNAの一つの柱がJHoC(ジェイホック、Jリーグ・ヘッドオブコーチング)です。
指導者育成ライセンスについては、イングランドも日本も同様のライセンス制度があります。イングランドでは、アカデミーのコーチの上にヘッドオブコーチングがいます。それとは別にアカデミーに関わるスタッフ全体を管理する専任の役職として、ヘッドオブアカデミーやアカデミーマネージャーが置かれています。
一方、日本ではアカデミーのコーチの上にイングランドにおけるヘッドオブコーチングに該当するアカデミーダイレクターが置かれていますが、日本ではアカデミーダイレクターがヘッドオブアカデミーやアカデミーマネージャーにあたる仕事を1人で兼任しているケースが多いという実情があります。
こうした背景から、プロジェクトDNAは指導者のマネジメントスキル強化を課題とし、カリキュラムにおいてはフィロソフィーや文化の構築、リーダーシップの育成、アカデミーのマネジメントなどを設けています。従来のJFAの上級の指導者養成コースにはそれらが十分含まれていないため、これらをJHoCの養成コースに組み込んでいます。
アカデミーの体系的な成長促進
これまで、Jリーグの中でのアカデミーは、J1、J2、J3の全55クラブがすべて同じ扱いを受けていました。Project DNAによりJリーグは「アカデミー・パフォーマンス・プラン」を導入します(もう導入済かもしれませんが)。各Jクラブのアカデミーの発展につなげると同時に、アカデミーの評価も行えるように計画しています。Jリーグ PUBレポートによると、1つ星から4つ星で評価できる仕組みを作りたいとしています。そして、単純に分類するのではなく、各アカデミーが向上するための道標となるような評価基準を設け、加えてアカデミーの生産性を上げていくツールや手段までを提供する方針です。
かつて、ウエストリー氏とレイムズ氏がイングランドにおいて同様のプログラムであるEPPPを推進した際、各クラブのアカデミーにおいてカテゴリー1を目指す向上心が生まれました。この経験を踏まえながら、Project DNAではしっかりとした評価項目を設け、最初は各アカデミーはそれに対して自己評価を行い、Jリーグもそれを評価し、連携しながら進める方針です。
ユース年代での試合機会の断絶の解消
Jリーグのかつてからの認識でもあるのですが、Project DNAでは、今の高校を含めた日本の育成システムで育てられたベストの選手がJリーグクラブとの契約をしているものの、入団後、実戦を行いながら成長できる場がないという点に問題意識を持っています。
かつて、この世代のためのコンペティションとして、サテライトリーグがありました。しかし、経費削減から廃止となってしまい、その後、この世代の強化は地域ごとの育成リーグや、またはJ3のU23チームとしての参加が強化の舞台となり、特にこの年代の選手育成の仕組みが流動的でした。かつてと異なり、「若手選手」の定義や海外移籍のターゲットとなる年齢層ががどんどん低下する中で、この年代が育成の頭を抑えることになっていました。この解決策がJエリートリーグなのです。
更に、Jエリートリーグを開催するもう一つの狙いとして、例えば、海外スカウトが選手を追跡しやすいショーケースとなり、若手選手の海外移籍をサポートする機会にもなります。
Project DNAをわかりやすく
Project DNAの取り組み全体まとめると、下図の通りとなります。
ちなみに、Jリーグのこういう図や計画を見て思うのですが、やっぱりこういうのはJリーグを支援しているデロイトが作ってあげたりしているんでしょうか。
お金を稼ぎ、クラブの繁栄につながる育成へ
これまでのJアカデミーでの育成というと、コアファンからの厚いサポートを受けられる選手を加えられるということや、割安な選手強化をメリットとして捉えたイメージで、確かに自前選手の育成のメリットをある程度享受していた程度の認識だったように感じられます。
しかし、このProject DNAは、育成をクラブの収益源の柱の一つとすることを位置付けています。具体的には、アカデミーの取り組みと成果に対し、Jリーグがサポートする配分金(育成支援金)、及び優秀なホームグロウン選手を安定的に輩出することによって得られる移籍金収入による利益獲得です。お金をモチベーションとし、投資→育成→回収のサイクルを確立していくのです。
Jリーグはビジョン2030や中期計画2022を通じて、しっかりとサッカーをビジネスとして捉えています。お金を求めることは決して悪いことではなく、収益を生む仕組みはその仕組みの継続を担保するものと理解しています。
この結果、ビジョン2030は、2030年のJリーグの目標の姿を次のように掲げています。
- 日本のエリート選手が世界のトップレベルでプレーしている
- 育成年代の活動において世界をリードする存在になっている
- Jリーグが世界のトップリーグ
- 世界規模の移籍戦略で投資利益を得ている
この結果、Jリーグはオランダやベルギーと並ぶ育成リーグとなるのか、または育成が評価されて東南アジアから選手が集まるリーグになるのか、はたまたその両方なのか、その姿を楽しみにしていました。
ここから
これらの計画が、コロナ禍のため、全て凍結します。慙愧に堪えません。
しかし、まずはチームの存続が先です。そこから、Jリーグのチームが潰れずに生き残れるか、リーグ自体が従来のレールに戻れるまでどれくらいかかるか、そしてウエストリー氏とレイムズ氏が日本に留まってくれるかでしょう。
それに対し我々ができることは、①一人一人がコロナウイルスに感染せず日常にいち早く戻れること、②DAZNの契約を維持すること、③クラブを通じて出来るだけ買い物をすること、④リーグが再開したら会場に足を運ぶこと。一般人としてはこんな感じでサポートしていくことでしょうか。
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