2020年度 第2回Jリーグ臨時理事会決議事項
2020年度 第2回Jリーグ臨時理事会が開かれ、それについてチェアマンの会見が行われました。その会見内容からリーグの状況が見えてくる部分がありますので、取りまとめと考察を行わせて頂きます。
臨時理事会の内容
決議事項
- 2020年シーズンの「Jエリートリーグ」の中止
- クラブライセンスの交付・取消に関する特例措置
- リーグ戦安定開催融資規定に関する特例措置
報告事項
- 2020シーズンの大会方式変更
理事会決議事項にかかる考察
決議事項と報告事項について
まず、Jエリートリーグとは、若手選手の育成を目指し、東日本4クラブ、関西・中四国と九州・沖縄で6クラブずつが参加する予定でした。当初の予定では、3月末から毎試合21歳以下の選手3人以上を登録し、各地域で対戦する予定でした。これが中止になります。
「クラブライセンスの交付・取消に関する特例措置」とは、3期連続赤字+債務超過でライセンスが剥奪されるというルールがありますが、今年は特別なとして翌年まで判定が猶予されるということ。
「リーグ戦安定開催融資規定に関する特例措置」とは、通常経営危機に陥ったチームがあった際に、ペナルティとセットで融資が実行される制度ですが、ペナルティ適用なしで利用できるというものです。
そして、「2020シーズンの大会方式変更」とは、今期は各カテゴリにおいて、昇格があっても降格がないことです。
決議事項と報告事項に係る考察
Jエリートリーグの中止以外は、兼ねてからチェアマンが記者会見やインタビューで明らかにしていたものです。このため、特段の驚きはありません。
但し、これらは4月25日にJ3が再開し、そこからJ2が5月2日、J1が5月9日と段階的に再開が続くことが前提での実施事項でした。
問題は事態がさらに進んでいることです。
村井チェアマンのコメント
村井チェアマンの長い質疑応答のコメントから、現状の肌感覚を知ることができます。以下、骨子です。
村井チェアマンコメント骨子
- 2030年ビジョン及び2022年中期事業計画の凍結。
- 試合日程は、1ヶ月刻みの延期シナリオのもとどのような手が打てるか検討中。
- 仮に日本代表がインターナショナルマッチデイに試合を行う場合であっても、Jリーグの試合を開催する可能性がある。JFAも理解。
- 天皇杯、ルヴァンカップ、プレーオフなどを圧縮しながら、ルヴァンカップを継続していく。
- リーグの主たる収益は、放映権収入、リーグパートナーからのパートナー収入、放映権収入である。その中でクラブに対し、55%程度を配分として支出。100億円強がリーグ運営経費。
- 55%払い戻す金額について、J1であれば5億円位、J2は2億円くらい、J3は3,000万円くらいの配分金となり、減額された場合経営への影響は大きい。
- 例えば、J1のチームの営業利益は1億円くらい。ここから5億円の配分金が減額されると影響は甚大。まずはクラブの均等配分金をしっかりしていくよう経営努力。
- パートナー収益を含め、ダウンサイズリスクがあるとすれば倹約していく。
- 約100億円のリーグ運営経費は中期経営計画を一旦凍結し、コスト構造を見直しをする。新たな設備も必要(サーモメーターなど)。
- クラブにはキャッシュフローシミュレーションを出すよう指示している。リーグ開催時期を白紙撤回したことにより、見直し中。
- 各クラブとは連携。配分金を守ることができた時の前倒しの計画や、ライセンス猶予の件や、融資の制度、民間からあるいは自治体を通じてお金を借りる、給付をいただくなどの調整を行なっている。全体というより各クラブ単位で個別の対応をしている。
- 選手と意見交換を実施。コンディションを守る、家族を守るなど、選手は不安な状況にある。選手はものが言いにくい。練習再開も慎重に判断してほしいとの声も。
- DAZNから減額の話は今のところ来ていない。緊密に情報交換はしている。
- 中期計画凍結による捻出額について、今は積算が難しい。リーグ運営経費が120〜130億円ある中で、30〜50%の幅を見込もうとしている。しかし、今その資金が手元にあるわけではなく、ざっくりの計算。
- 配分金前倒し受領の申請はない。
- 自治体や国による支援制度については、経産省が取りまとめた内容が使い勝手がありそう。しかし、国会の予算が通るのがもう少し先。具体的な支援が発生するのは1〜2週間後か。
- 当初予算でファン・サポーター向け予算で約20億円くらいを計上していた。これは凍結するが、この財源の(一部)をコミュニケーションに充当することはありうる。
- クラブからJFAに支払っている入場料収入の3%(この仕組みは知りませんでした)は、再開しても減免される見通し。
- JFA田島会長には先般シミュレーションの十数億円単位のリスクの話をした。田島会長より「必要なことがあったら言ってくれよ」と申し出。
- Jリーグは2019年決算で約28億円の手元現金。
- DAZNとの契約内容はクラブには共有していない。守秘義務があるため。
- 他国の事例については、ラ・リーガやベルギーリーグにおける選手に対する休業補償、ベルギーでは半分以上のクラブが報酬返上に応じていることなどを聞いた。一方では政府からの保証が7割程度あり、2、3割がクラブ負担。痛みをシェアしていく厚い政府保証があり、スペインも同様。
- 日程が、リーグ終盤戦に差しかかっている国と、Jリーグのように序盤の国では位置づけ、扱いが違ってくるという話も聞いた。
- アメリカは大規模な財政出動が出ているようであり、小規模なクラブでもほぼ経営の見通しが立ちそうだ。
村井チェアマンコメントから推察できること
お金の問題が切実のものになってきたということだと思います。
以前の投稿でもお知らせしましたが、村井チェアマンは選手の報酬カットを回避させたいという考えでした。それがJリーグの強みであるとアピールしたかった。そして、それは10億円ほどの「リーグ戦安定開催融資」により賄えると判断したのでしょう。
しかし、当該融資を含め、この事態はリーグでは賄いきれないと判断しているのでしょう。そして、とにかく今の状況の止血措置を優先する。いつまで止血が続くか分からない中で、とにかくキャッシュを確保したい。そのためにお金をかき集めている。そこにてんやわんやなのだと思います。
危機対応のための支援資金捻出のまとめ
先述の骨子から見ると以下の感じかと思います。
今持っているお金
- 手元現金 28億円(リーグ戦安定開催融資はこのポケットからでしょう)
今年の収入から節約し、危機対応として捻出するお金
2020年は、Jリーグ(公益社団法人 日本プロサッカーリーグ)事業費として、120億円程度の支出を予定していますが、以下の資金を捻出する方針です。
- 新規投資凍結によるコスト削減 40億円
- ファン・サポーター予算 20億円
この結果、90億円程度を捻出する見込みです(但し、新規投資凍結によるコスト削減額はあくまでも目標で、裏付けはない模様)。
大前提はDAZNマネー
しかし、これらの計画はDAZNの放映権収入が大前提です。それがないと全てが破綻します。なぜなら、Jリーグ(公益社団法人として)の収入は約300億円を予定していますが、うち200億円は放映権収入によるものであるからです(ルヴァンなど一部はスカパーや地上波だと思いますが)。
このため上述の捻出金額の中では、新規投資凍結によるコスト削減の40億円及びファン・サポーター予算の20億円です。そして、最も大きいのが、危機対応としての資金ではない、元から配分される予定の資金であったクラブへの配分金150億円です。
このため、「DAZNから減額の話は今のところ来ていない。緊密に情報交換はしている」というのは現時点では吉報です。しかし、「緊密に情報交換」というのは契約書に照らして、条件を確認または「決め」をしているものと推定しています。おそらく、このポイントが一部メディアで騒がれる70%の試合実施ではないかと思っています。
DAZNの放映権料を死守しなければいけないのです。遅れても、秋春制でも、やらなければいけないのです。ルヴァンもやらなければいけないのです。だから村井チェアマンは再開に拘るのです。状況は綱渡りです。
おそらく、東日本大震災の時にコパアメリカを辞退した際もこういう状況だったのでしょう。
ここから、JFAからの支援、業界団体を団結し国からの支援を仰ぐ、給与減額、寄付を募る、スポンサーそして場合によっては自治体からの資本注入などの選択肢、などを組み合わせ、乗り越えていくのだと思います。
そして最悪、欧米クラブのように潰れてしまっても再起する力が問われているのかもしれません。
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