びっくりのJ3降格
ギラヴァンツ北九州は2010年シーズンにJ2リーグに初めて参戦しました。当該シーズンの順位は最下位となりましたが、翌年就任し、2年間指揮を執った三浦ヤス監督を経て、それを引き継いだ柱谷幸一監督のもと、2014年には5位、2015年には7位と、そろそろ昇格のチャンスもあるかと思われたところで、2016年シーズンに驚きの最下位(22位)となり、J3に降格しました。
この、びっくりの降格からどのようにして北九州がJ3を過ごし(今回、データとして3期目の2019シーズンはありません)、J2に復帰したのかを調べてみたいと思ったのが今回の問題意識です。
J3降格は営業収益のインパクト甚大
ここで注目すべきはJ3降格後の収益レベルの変動です。
J3降格チームの営業収益の変動
降格決定シーズン | チーム | J2売上 | 翌年J3降格後 | 減少額 | 減少率 |
2017 | 群馬 | 624 | 462 | 162 | -26% |
2015 | 大分 | 958 | 797 | 161 | -17% |
2014 | 富山 | 735 | 531 | 204 | -28% |
2013 | 鳥取 | 646 | 460 | 186 | -29% |
※2016シーズン降格は北九州
各チームのJ3降格後の損益計算書の内訳を見ると、概ねスポンサー収入は20%程度、入場料は4〜5割減っています。入場料については、リーグ所属のチームがJ2より少ないため、試合数自体が少ないことも影響しています。
気にするべきなのは減少額のところです。概ね160百万円から200百万円減少します。この結果、ざっくり言うと営業収益の約50%程度を占めるチーム人件費を8000万円〜1億円近く減らす計算となります。このインパクトは大きく、例えば2017年の群馬はチーム人件費を292百万円から69百万円減らしました(細かく言うと下部リーグは人件費率は50%よりもう少し低いです)。このため、新たなJ3降格チームにおいては、高額選手放出は避けられません。
ギラヴァンツの損益計算書は降格してどうなった
ここでギラヴァンツ北九州がどうなったのかを損益計算書を通じて見てみましょう。
ギラヴァンツ北九州損益計算書推移(単位:百万円)
シーズン | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 |
決算期 | 2012年1月期 | 2013年1月期 | 2014年1月期 | 2015年1月期 | 2016年1月期 | 2017年1月期 | 2018年1月期 | 2019年1月期 |
順位 | J2 8位 | J2 9位 | J2 16位 | J2 5位 | J2 7位 | J2 22位 | J3 9位 | J3 17位 |
営業収益 | 521 | 682 | 686 | 747 | 777 | 855 | 864 | 794 |
広告料収入 | 176 | 252 | 272 | 308 | 328 | 384 | 384 | 394 |
入場料収入 | 78 | 98 | 88 | 79 | 82 | 80 | 124 | 107 |
Jリーグ配分金 | 91 | 86 | 90 | 90 | 81 | 82 | 36 | 26 |
アカデミー関連収入 | 34 | 44 | 50 | 64 | 82 | 85 | 88 | 105 |
物販収入 | 71 | 69 | 43 | |||||
その他収入 | 142 | 202 | 186 | 205 | 204 | 151 | 163 | 119 |
営業費用 | 584 | 675 | 673 | 738 | 773 | 842 | 854 | 813 |
チーム人件費 | 222 | 259 | 249 | 284 | 283 | 343 | 308 | 287 |
試合関連経費 | 49 | 44 | 48 | 46 | 52 | 55 | 77 | 75 |
トップチーム運営経費 | 82 | 102 | 99 | 103 | 101 | 118 | 110 | 96 |
アカデミー運営経費 | 16 | 18 | 26 | 26 | 42 | 40 | 53 | 56 |
物販関連費 | 53 | 50 | 31 | |||||
販売費および一般管理費 | 215 | 252 | 251 | 279 | 295 | 233 | 256 | 269 |
営業利益 | -63 | 7 | 14 | 9 | 5 | 13 | 10 | -19 |
経常利益 | -65 | 5 | 12 | 7 | 3 | 12 | 9 | -19 |
当期純利益 | -65 | 2 | 11 | 5 | 3 | 2 | 6 | -21 |
まず、営業収益がJ2の降格が決まったシーズンと比べ、2017シーズンが1.1%増加(何と増加です)、2018シーズンが7.1%減少と、J2降格前と比べ遜色ない予算を確保しています。
この結果、J3に降格した北九州はJ3ではビッグクラブで、データのある2017年シーズンと2018年においては、J3最大の予算規模でした。
一応言及しておくと、2018シーズンは21百万円赤字となりました。それぞれの数字を見ると、同じくJ3リーグだった前年と比べると、入場料、リーグ配分金が減少し、チーム人件費も減少させたものの、及ばなかったと言う見方ができると思います。これは、J3降格というより、やはりJ3最下位の影響が大きいと考えます(降格というよりJ3で負けすぎの影響とみています)。しかし、それでもなお、降格してもなお概ね規模を維持できたギラヴァンツは踏ん張りました。
この営業収益維持の要因について以下、検討していきます。
広告料収入
まず、J3降格にもかかわらず予算規模に大きな変動がなかった理由は、広告料収入にあります。J2降格の2016シーズンで384百万円であったものが、2017年シーズン384百万円(維持)、2018シーズン394百万円と増加しています。ここに、スポンサー企業のコミットを感じます。
よくあるギラヴァンツ北九州の話題に「ユニフォームのスポンサーがスゴイ」というのがありますが、以下の通り北九州ゆかりの企業です。
安川電機本社:福岡県北九州市八幡西区黒崎城石2番1号
TOTO本社:福岡県北九州市小倉北区中島2-1-1
ゼンリン本社:福岡県北九州市戸畑区中原新町3番1号
北九州は単なる製鉄の町ではないことが分かります。そして、ここでギラヴァンツの主な株主構成を紹介します。
株主名 | 株式数 | 株主名 | 株式数 |
ギラヴァンツ北九州持株会 | 841株 | 黒崎播磨株式会社 | 100株 |
TOTO株式会社 | 200株 | 株式会社コアズ | 100株 |
株式会社安川電機 | 200株 | 学校法人 国際学園 九州医療スポーツ専門学校 | 100株 |
株式会社ゼンリン | 180株 | 三宅朝広 | 100株 |
株式会社セイシン企業 | 180株 | 宗篤史 | 100株 |
株式会社スプリングヒル | 130株 | 株式会社ワールドホールディングス | 60株 |
株式会社井筒屋 | 100株 | 山九株式会社 | 60株 |
株式会社タカミヤ | 100株 | 九州電力株式会社 | 60株 |
第一交通産業株式会社 | 100株 | 北九州エアターミナル株式会社 | 60株 |
株式会社タカギ | 100株 | 上野精機株式会社 | 60株 |
株式会社ナフコ | 100株 | 他 | 1,600株 |
最大の株主はギラヴァンツ北九州持株会ですが、これは追って触れます。
これに続く大株主に先述のスポンサー企業の名前が見られます。このため、はたから見れば「安川電機、TOTO、ゼンリン等の支援はスポンサーは継続されるのか」と毎年気になる向きもあるかもしれませんが、心配はなさそうです。
また、街の歴史から考えるとギラヴァンツのユニフォームスポンサーは、胸に日本製鐵(新日鐵)が入るべきだとは思うのですが、鹿島アントラーズ株の放出もありましたので、そもそもサッカーには関与しないのでしょう。なお、鎖骨と背中下部のスポンサーが入っていないので、ここに新スポンサーが入れば広告料収入のアップサイドがあります。
また、2011年シーズンから2014年に渡って、北九州は債務超過の状態でJ2リーグライセンス付与に関し、Jリーグより解消の勧告を受けてきました。これに対し、27百万円の増資が行われたのですが、恐らくの先述の大株主から行われたのではないでしょうか。
J3リーグが稼働スタートとなってしまったミクスタも寄与
計画当初、2017シーズンは、本城競技場では得られなかったJ1ライセンスを新スタジアムミクニワールドスタジアムで充足し、華々しくJ1を目指す予定でしたが、驚きのJ3スタートとなりました。
まずはJ2復帰を目指すというところで、この「ミクスタ」もチームをサポートします。
通常、J3に降格すると、他の事例で見ると入場料収入は4〜5割ほど減ります。しかし、ギラヴァンツ北九州の場合は平均入場者数はむしろ増加し、J3に降格のため50百万円ほど減額されたJリーグからの配分金の多くをカバーします(2018シーズンは少し足りませんでしたが)。結果的にこれはスタジアムを作った北九州市のファインプレーです。
ギラヴァンツ北九州ホームゲームの平均入場者数
シーズン | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 |
決算期 | 2015年1月期 | 2016年1月期 | 2017年1月期 | 2018年1月期 | 2019年1月期 | 2020年1月期 |
本拠地 | 本城 | 本城 | 本城 | ミクスタ | ミクスタ | ミクスタ |
順位 | J2 7位 | J2 22位 | J3 9位 | J3 17位 | J3 17位 | J3 優勝 |
平均入場者数 | 3,622 | 3,488 | 3,224 | 5,939 | 4,501 | 6,049 |
コメント