2020年1月期決算を眺めてみる
長い前置きとなりましたが、ここで決算を見てみましょう。これまで書いた話も少し数字で照らし合わせることができます(スマホの人小さい字ですみません!)。
損益計算書
貸借対照表
先述の通り、2020年1月期は営業収益は1,577百万円(前期比13%減少)、当期利益は107百万円の赤字(前期は2百万円の黒字)でした。
主な減収要因は、スポンサー社数前期の918社から781社(対前期比137社減)による広告収入減、及びラグビーワールドカップ開催による代替スタジアムでのホームゲーム開催などの影響もあり、平均入場者数前期の8,873人から6,983人(対前期比1,890人減)にとどまったことによる入場料収入等の減少とのことです。
減収要因は、確かにラグビーワールドカップの影響と成績不振による入場料収入の伸び悩みはあると思います。しかし、実際のところアビスパ福岡の営業収益のうち入場料の占める割合は低く(10%〜20%程度)、減収金額は前期比40百万円程度です。それほど影響が大きいとは思えません。問題は、営業収益の50%ほどを占める広告収入の減少です。990百万円から693百万円と297百万円減少しました。一般に、広告料収入が伸びている又はせいぜい横ばいのチームが多い中、スポンサー社の二桁パーセントの減少は異例に見えます。
この減収のため、チーム人件費は909百万円から784百万円と125百万円絞られました。2019シーズンのチームの順位が16位に落ちた要因の一つでしょう。
そして、一番の問題は、今回の赤字を受けて、自己資本は179百万円から69百万円と大幅に減少し、更に今走っているシーズンはコロナの影響で、アビスパ福岡に限らずどこのクラブも赤字になる可能性が高いため、債務超過の足音が聞こえてきます。現状、この前の3月末の2020年9月期半期決算の数字でもアパマンの経営状況もあまり芳しくないこと(532百万円の経常赤字)に加え、コロナの影響を鑑みると、増資を目指すにしても少し苦労しそうな気がします。
芳しくない決算についてもう一つの仮説
ここでひょっとしたらの仮説ですが、コロナの影響のない2020年1月期の不振は何だろうと考えて調べているうち、以下の記事の内容が気になりました。アパマンから派遣されたアビスパ福岡社長の川森社長のインタビューです。
自分も初めてスポーツクラブの経営に携わりましたし、経営陣や社員のトレーニングも合わせた1年間でした。その部分は毎日会議を行い、知見を広めていきながら、目標を可視化して、数字のプレッシャーを与えました。たとえば観客動員数をいかに増やすかを検討する会議では、目標や現状、着地見込を1枚にまとめたシートを活用しています。そこにはテレビ放送がどの局であるのか、生放送か録画放送か、天候などに加え、動員数の目標と収益目標、縦軸にはシーズンシートなど既に販売している方々の何割が来場するのか、前売り状況、当日予測、あとは営業チームごとの集客数、株主様、地域の経済団体、アパマンショップグループの動員など、毎日毎日、見込みと進捗を追っています。試合が立て込んでいるときは、3試合分のシートが走っていることもあります。トップチームは常に勝ち点や勝敗など、数字にさらされているのだから、自分たちも役割分担として、そうしたプレッシャーのなかでやるのは当然のことだと思っています。可視化せずにただ「頑張っている」と言っても、抽象的になってしまいますから。昨季は後半、選手がテレビなどのインタビューでそうした経営面のことを話してくれて「ああ、浸透しているんだな」と嬉しくなりました。
ここで思い出したのは、札幌のアパマンショップにおいて、爆発事故が起きた事件です。当該アパマンショップで、未使用の除菌消臭スプレー120本を、廃棄目的に噴射して空にする作業を部屋を閉め切ってしていたところ、湯沸かし器を点け爆発が起きたというものです。
アパマンショップは顧客に消臭サービスと称するものを提供しており、顧客から代金を受け取っていながら未実施のケースがあったと会見で説明されました。ちなみに、除菌・消臭スプレーの仕入れ値は1缶1000円程度であるにもかかわらず、入居時のオプションとして行う消臭オプションサービスでは最低でも1万円の料金を取っていたそうです(同サービスの消臭スプレー噴霧は時間は4分ほど)。問題として、スタッフごとに消臭サービス受注ノルマがあったこと。そして、その店舗はサービスを請負ったものの、未実施なケースがあったことが報じられています。このため、当該消臭サービスを行わず蓄積した缶を、廃棄作業をしていたのでは、という指摘もされています。なお、このスプレーを製造する「ヘヤシュ」という会社はアパマンのグループ会社であるようです。
実際のところ、本件はアビスパ福岡と関係ないものの、アパマンの企業体質を表しており、それがアビスパに影響しているのではないかと考えています。
私がここで言いたいのは、アパマンの批判ではなく、アパマン中心のアビスパ福岡の経営方針において、モーレツ営業を基礎としたプッシュ型の営業の限界が来ているのではと思っています。今後、アビスパ福岡が目指している「100億円クラブ」に到達するためには、何十万人という規模の人々にチームを訴求する必要があります。これを営業で売り込むとなると、それに応じた営業マンの数が必要になりますが、現実的ではありません。要は、営業ではなく、ちゃんとしたマーケティングの発想やより昇華された経営方針が求められているということです。営業とマーケティングの違いをググってみると、営業とは顧客に製品を売る行為であり、マーケティングとは製品・サービスが売れるための仕組みを作ること、という説明になります。もし、マーケティングの概念でアプローチしていたら、先述の社長の「動員」という言葉はなかなか出てこないのではないでしょうか。もちろん、チームによる「訴求」とは、「試合が面白い」、「魅力ある選手がいる」、「勝つ」など、今まで触れてきた事務方の話よりも、試合という現場に生み出されるものが第一です。しかし、この現場こそ、「どんなチームでありたい」、「どんなサッカーを見せたい」、「コミュニティとこのように関わりたい」など経営が打ち立てた経営方針が影響するものだと思います。それらはすでにあるのだと思うのですが、今のクラブにうまく機能していないとみています。
アパマンの参入により、クラブの目線が存続から成長に目を向けられるようになりました。一方、現在Jリーグで起こっているのは旧来のメーカーや重厚長大の責任企業から、新しいタイプの責任企業への経営のバトンタッチです。そして新しいマーケティング方法や新しい収益獲得方法の模索が進んでいます。人口や経済に厚みを持つ福岡ですから、アビスパがビッグクラブになるポテンシャルは十分あると思います。しかし、次の成長軌道に乗るためには、今までの何かを変える必要があるのだと思います。
というのが本稿2つ目の仮説です。違ってたらすみません。決算数値とウェブの情報を元に事情を知らないで書いていますので、ひょっとしたら今回のスポンサーからの広告料の減少は、単に昨年の水害による影響でのスポンサー減少の可能性も有るのかなと実は思っています。
いずれにせよ、100万人の人口がある街のクラブは原則としてビッグクラブになるポテンシャルがあると思っています。いかにホークスやライオンズなどの野球が人気であっても、それでも市場としてのポテンシャルは十分だと思っていますので、長谷部監督を迎えてのシーズン再開後の活躍を楽しみにしています。
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