ゼビオ側の事情はいかに
経緯
このままでは年内に資金がショートするとして、ヴェルディは秋から急ピッチで資金繰りを含む抜本的再建案を模索してきた。そして56%の新株予約権を保有し潜在的筆頭株主のゼビオに対し、新株予約権をすべて行使し責任を持って支援に踏み込むか、新株予約権を第三者に譲渡するかを迫った。ゼビオの持つ新株予約権には、第三者がヴェルディの増資を引き受けた場合、ゼビオ以外の増えた株式の数に応じてゼビオの持つ新株予約権の権利が増え、株式転換後は56%が維持される条項が付いている。これが新たなスポンサーの登場を阻んでいた。ゼビオは逆に経営責任を明確にするため羽生社長ら4人の取締役の退任を要求。12月に入り新株予約権を11%分だけ行使し、8800万円をヴェルディに振り込んだ。だがヴェルディは、この程度の付け焼き刃の対応では資金ショートが1~2カ月先送りされるだけで抜本的改革にはならないと反発していた。その後、ゼビオは妥協案を提示する。それが上記の羽生社長が株主に宛てた手紙にある「ゼビオHDが提示する資金調達案」だ。ゼビオは黒字を維持しているヴェルディのスクール事業を5億円で買い取ることを提案した。この案だとヴェルディは1年程度の資金をひとまず確保することができる。だがヴェルディはこれに猛反発した。スクール事業がなくなると、1年は持ちこたえてもその先の収益源が不透明になるからだ。株主に宛てた手紙には「貴重な収益事業のみをゼビオグループに売り渡し、ヴェルディの将来の収益性を棄損する短期延命措置であり、中期的にはクラブの基盤を弱体化させる、いわばヴェルディの解体案にほかならず」と訴えている。また育成型クラブを自負するヴェルディとしては、アカデミー部門(育成)とそれにつながるスクール事業(普及)は「チーム強化の根幹をなす両輪であり、そのいずれかを失って成立するものではありません」とも主張する。ゼビオとしては約1年分の資金に相当する5億円を提供してひとまず延命してもらい、その間にまた次の手を考えよう、という妥協案だったかもしれない。だがヴェルディが求める新株予約権の他者への譲渡、もしくは56%分すべてを行使という要求には応じなかった。
「取材から見える別の側面」
新株予約権
東洋経済は、今回の東京ヴェルディ出資についてゼビオHDが日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)に説明した文書を入手した。それによると、羽生氏が「元凶」と批判した新株予約権のスキームには、経営陣の自由度を確保する目的とともに、私的な支配欲と資金力でクラブを買収する行為を阻止する狙いがあったとしている。
一般的論ですが、買収防衛策の一環として新株予約権が活用されることがあります。新株予約権は敵対的買収者が株式を買い集めた場合、当該買収者に対抗するための新株予約権を発行するという制度設計も一部企業では行われています。そして、発行の際には第三者から構成される特別委員会等も設置され、経営陣の恣意的な判断が排除される仕組みも作ることが一般的です。
東京ヴェルディの仕組みで問題なのは、56%株式保有を前提にし、10年間も新株予約権のまま持ち続けていることです。このため、ゼビオが支援のお金を投じない中、新たなスポンサーの出現を妨げていました。
この結果、東京ヴェルディがゼビオに対して新株予約権を第三者に譲渡するか、すべて行使してゼビオが経営に本格的に責任を持つことを求めたことは合理的な要求でしょう。しかし、ゼビオはやりませんでした。
注意したいのは、上の引用の「ゼビオHDが支配権を握らないようにするため」というくだりです。東京ヴェルディを連結子会社化回避を強く意識している印象です。
ゼビオは、12月に入り②の新株予約権を11%分(1,035個のうち880個)だけ行使し、8800万円をヴェルディに振り込みましたが、この刻んだ出資も連結子会社化を回避することを強く意識したものだと推察します(そうでなければ、少なくとも1035個すべて行使するはず)。
もちろん、子会社を連結子会社化するか否かというのは経営判断ですが、10年間も対象会社を潜在株式というで微妙な方法で支配し、手足を縛るのはいかがなものかと思います。
赤字補填を目的とした若手選手の売却
若手選手の売却も批判されています。
スクール事業買収の提案があったことは事実のようだ。ただ、Jリーグに提出した文書には、これまでの経営実態に対して、「赤字補填を目的とした若手選手の売却」という強い非難の言葉が入っている。
どういうことか。関係者によると、羽生氏を始めとした経営陣はJ1昇格を狙って、大物選手の獲得に力を入れてきた。その資金は、有望なユース選手を放出することで得る移籍金で賄ってきたという。スクール事業の買収提案は、資金援助の1つの手段にすぎない。むしろ短期的な成果ばかりを求め、自前の選手育成を怠ってきたのは、これまでの経営陣というわけだ。
育成クラブに舵を切ったヴェルディにとっては、選手の売却は当然経営手段の一つではないでしょうか。残念なことではありますが、クラブ運営のため、赤字を埋めるためという経営判断もありえるのではないでしょうか。
一応、2020年の選手名鑑をみると、下部組織から昇格して在籍している選手は、井上潮音、澤井直人(フランスを挟んで)、森田晃樹、阿野真拓、松橋優安、石浦大雅、馬場晴也、藤田譲瑠チマなどがいます。レンタル移籍中の選手やレンタル移籍を挟んで戻ってきた選手を入れるともっといるでしょう。これは自前の選手育成の結果ではないかと思います。
ひょっとしたら、残すべき選手を売ってしまったという判断があるのかもしれませんが、それこそオーナーではなく経営者の決めることです。
資金援助を行ってきた
関係者への取材を総合すると、これまでゼビオHDは東京ヴェルディに対して、金銭的・人的支援を行っていた。また新株予約権の行使額の大半が1円だったため、少ない金額で株を取得したと指摘されるが、2010年当時に一定額を払い込んでいるという。ゼビオHDが支配権を握らないようにするため、予約権の対価を1円分だけ残した。その結果、今回大半の行使額が1円となっただけだという。
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