東洋経済記事「東京ヴェルディを子会社化した「ゼビオ」の深謀」への違和感

ゼビオ側の事情はいかに

東洋経済オンラインより、「東京ヴェルディを子会社化した「ゼビオ」の深謀」という記事がアップされました。
直近のヴェルディの経営危機に関する報道が続く中で、羽生前社長のコメントを取り上げた報道が多い中、ゼビオ側の事情を説明した記事になっています。

経緯

別の記事ですが、日経ビジネスオンラインの記事「ヴェルディとゼビオ、再建案で決裂 27日の臨時株主総会で対決」が経緯に詳しいので、まず、確認してみます。
このままでは年内に資金がショートするとして、ヴェルディは秋から急ピッチで資金繰りを含む抜本的再建案を模索してきた。そして56%の新株予約権を保有し潜在的筆頭株主のゼビオに対し、新株予約権をすべて行使し責任を持って支援に踏み込むか、新株予約権を第三者に譲渡するかを迫った。
ゼビオの持つ新株予約権には、第三者がヴェルディの増資を引き受けた場合、ゼビオ以外の増えた株式の数に応じてゼビオの持つ新株予約権の権利が増え、株式転換後は56%が維持される条項が付いている。これが新たなスポンサーの登場を阻んでいた。
ゼビオは逆に経営責任を明確にするため羽生社長ら4人の取締役の退任を要求。12月に入り新株予約権を11%分だけ行使し、8800万円をヴェルディに振り込んだ。だがヴェルディは、この程度の付け焼き刃の対応では資金ショートが1~2カ月先送りされるだけで抜本的改革にはならないと反発していた。
その後、ゼビオは妥協案を提示する。それが上記の羽生社長が株主に宛てた手紙にある「ゼビオHDが提示する資金調達案」だ。ゼビオは黒字を維持しているヴェルディのスクール事業を5億円で買い取ることを提案した。この案だとヴェルディは1年程度の資金をひとまず確保することができる。
だがヴェルディはこれに猛反発した。スクール事業がなくなると、1年は持ちこたえてもその先の収益源が不透明になるからだ。株主に宛てた手紙には「貴重な収益事業のみをゼビオグループに売り渡し、ヴェルディの将来の収益性を棄損する短期延命措置であり、中期的にはクラブの基盤を弱体化させる、いわばヴェルディの解体案にほかならず」と訴えている。
また育成型クラブを自負するヴェルディとしては、アカデミー部門(育成)とそれにつながるスクール事業(普及)は「チーム強化の根幹をなす両輪であり、そのいずれかを失って成立するものではありません」とも主張する。
ゼビオとしては約1年分の資金に相当する5億円を提供してひとまず延命してもらい、その間にまた次の手を考えよう、という妥協案だったかもしれない。だがヴェルディが求める新株予約権の他者への譲渡、もしくは56%分すべてを行使という要求には応じなかった。

「取材から見える別の側面」

このような経緯のもと、東洋経済の記事によると「取材を進めると、まったく別の側面が見てくる」そうです。記事によると、ゼビオの主張するポイントとして、1.新株予約権、2.赤字補填を目的とした若手選手の売却、3.資金援助、4.過剰な経費利用等が常態化、複数の不透明な商取引、があるようですが、以下、確認してみます。

新株予約権

まず、新株予約権のスキームについて、以下の説明があります。
東洋経済は、今回の東京ヴェルディ出資についてゼビオHDが日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)に説明した文書を入手した。それによると、羽生氏が「元凶」と批判した新株予約権のスキームには、経営陣の自由度を確保する目的とともに、私的な支配欲と資金力でクラブを買収する行為を阻止する狙いがあったとしている。
記事では、詳しい説明はありませんが、書きぶりを見る限りいわゆる買収防衛策としての意図があるようです。この、ゼビオが保有する東京ヴェルディの新株予約権は以下の2種類がありました。
【新株予約権①】
2010年の経営危機をゼビオが救った際に割り当てられた8000の新株予約権
【新株予約権②】
新株予約権①発行以降、第三者がヴェルディの増資を引き受けた場合、ゼビオ以外の増えた株式の数に応じてゼビオの持つ新株予約権の権利が増え、株式転換後は56%が維持される条項に基づき、追加で割り当てられた1035個の新株予約権

一般的論ですが、買収防衛策の一環として新株予約権が活用されることがあります。新株予約権は敵対的買収者が株式を買い集めた場合、当該買収者に対抗するための新株予約権を発行するという制度設計も一部企業では行われています。そして、発行の際には第三者から構成される特別委員会等も設置され、経営陣の恣意的な判断が排除される仕組みも作ることが一般的です。

東京ヴェルディの仕組みで問題なのは、56%株式保有を前提にし、10年間も新株予約権のまま持ち続けていることです。このため、ゼビオが支援のお金を投じない中、新たなスポンサーの出現を妨げていました。

この結果、東京ヴェルディがゼビオに対して新株予約権を第三者に譲渡するか、すべて行使してゼビオが経営に本格的に責任を持つことを求めたことは合理的な要求でしょう。しかし、ゼビオはやりませんでした。

注意したいのは、上の引用のゼビオHDが支配権を握らないようにするためというくだりです。東京ヴェルディを連結子会社化回避を強く意識している印象です。

ゼビオは、12月に入り②の新株予約権を11%分(1,035個のうち880個)だけ行使し、8800万円をヴェルディに振り込みましたが、この刻んだ出資も連結子会社化を回避することを強く意識したものだと推察します(そうでなければ、少なくとも1035個すべて行使するはず)。

もちろん、子会社を連結子会社化するか否かというのは経営判断ですが、10年間も対象会社を潜在株式というで微妙な方法で支配し、手足を縛るのはいかがなものかと思います。

赤字補填を目的とした若手選手の売却

若手選手の売却も批判されています。

スクール事業買収の提案があったことは事実のようだ。ただ、Jリーグに提出した文書には、これまでの経営実態に対して、「赤字補填を目的とした若手選手の売却」という強い非難の言葉が入っている。

どういうことか。関係者によると、羽生氏を始めとした経営陣はJ1昇格を狙って、大物選手の獲得に力を入れてきた。その資金は、有望なユース選手を放出することで得る移籍金で賄ってきたという。スクール事業の買収提案は、資金援助の1つの手段にすぎない。むしろ短期的な成果ばかりを求め、自前の選手育成を怠ってきたのは、これまでの経営陣というわけだ。

育成クラブに舵を切ったヴェルディにとっては、選手の売却は当然経営手段の一つではないでしょうか。残念なことではありますが、クラブ運営のため、赤字を埋めるためという経営判断もありえるのではないでしょうか。

一応、2020年の選手名鑑をみると、下部組織から昇格して在籍している選手は、井上潮音、澤井直人(フランスを挟んで)、森田晃樹、阿野真拓、松橋優安、石浦大雅、馬場晴也、藤田譲瑠チマなどがいます。レンタル移籍中の選手やレンタル移籍を挟んで戻ってきた選手を入れるともっといるでしょう。これは自前の選手育成の結果ではないかと思います。

ひょっとしたら、残すべき選手を売ってしまったという判断があるのかもしれませんが、それこそオーナーではなく経営者の決めることです。

資金援助を行ってきた

次は、資金援助です。
関係者への取材を総合すると、これまでゼビオHDは東京ヴェルディに対して、金銭的・人的支援を行っていた。また新株予約権の行使額の大半が1円だったため、少ない金額で株を取得したと指摘されるが、2010年当時に一定額を払い込んでいるというゼビオHDが支配権を握らないようにするため、予約権の対価を1円分だけ残した。その結果、今回大半の行使額が1円となっただけだという。
また、同記事では、「2010年当時に一定額を払い込んでいる」といいますが、それについてJリーグから開示されている東京ヴェルディの貸借対照表によると、2010年の増資額は全体で153百万円です。ゼビオの出資額はその153百万円の一部でしかありません。この程度で「一定額を払い込んでいる」とドヤ顔で言って欲しくないところです。
また、「ゼビオHDが支配権を握らないようにするため」という記載もあり、連結子会社化回避に強いこだわりが見え隠れします。

「過剰な経費利用等が常態化、複数の不透明な商取引」

下表は、2019シーズンの東京ヴェルディの損益計算書、売上規模の似た横浜FC及び京都サンガ、並びにJ2平均の損益計算書を表にして並べました。
東京ヴェルディ1百万円の黒字、横浜FCはトントン、京都サンガは45百万円赤字です(黄色のハイライト)。東京ヴェルディや横浜FCのような損益ほぼトントンの収支というのは、Jリーグクラブの運営としては一般的です。なお、この期は柏が1,016百万円、福岡が103百万円、愛媛89百万円、岐阜が69百万円の赤字を計上しています。
そして、ゼビオが増資に応じた2010年(2011年1月期)以降、東京ヴェルディが赤字を計上したのは2014年1月期のみです。
そして、費用個別でみると、他のチームとの違いとしてトップチーム運営経費についての対営業収益比率が高く、チーム人件費が低めという特徴がありますが、通常、一般的な経費が含まれる販売費及び一般管理費は他のチームと遜色なく(東京V30%、横浜C18%、京都31%J2平均28%)、これらを見る限り「過剰な経費利用等が常態化」といった放漫経営的な要素は見えてきません。現状、開示データでは「複数の不透明な商取引」の有無を確認すること、あるいは推察することは難しいですが、「取材を進めると、まったく別の側面が見てくる」とまで言うのであれば、東洋経済には具体的に何があったのかを取材の上示してもらいたいところです。

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