2022/23シーズン、首位を走るフェイエノールト(2023年2月時点)
今シーズン、フェイエノールトは6年ぶりの優勝に向け首位を走っています。前回投稿「フェイエノールトの債務超過解消」に記した通り、2010年、破産の危機に瀕していたフェイエノールトは、サポーターグループ「フレンズ・オブ・フェイエノールト」による増資により破産の危機をかろうじて免れました。以降、クラブは財政状況の改善を進めており、その状況を追ってみます。なお、各種数値データはSwiss Rumbleさんから拝借しました。
◆フェイエノールト2021・2022シーズン損益計算書
(出所:Swiss Rumble)
上の図はフェイエノールトの2021年度、2022年度の損益計算書です。個別の科目は別途確認するので、ざっと見てもらえれば良いと思います。
ポイントとしては営業収益が87百万ユーロと前期比41%増加したこと、費用も84百万ユーロと前期比32%増加したこと、営業損益と当期純損益は前期比で改善したものの、引き続き赤字であること、これくらいでいいかなと思います。
なお、EBITDAは支払利息、税引き前、償却費控除前の利益で、概ねクラブの稼ぐ力の目安とみてもらっていいです。
2021/22シーズンの営業収益(売上高)
損益計算書を上からいきましょう。2021/2022シーズン、フェイエノールトの営業収益(売上高)は前期の61.8百万ユーロから87.2百万ユーロに25.4百万ユーロ(41%)増加しました。これはコロナ前の2019年の70.8百万ユーロより16.4百万円(23%)も増えています。この主な理由は、UEFAコンファレンスリーグにおける好成績と、COVID19の影響がひと段落したことによりファンがスタジアムに一部戻ったことです。
◆フェイエノールト 営業収益推移
(出所:Swiss Rumble)
2013年からの営業収益の推移をみると、2017年と2021年に大きく稼いだことが目立ちます。ともにヨーロッパの大会における収入の寄与によるものです。2017/18シーズンはチャンピオンズリーグに出場、2021/22シーズンがヨーロッパカンファレンスリーグにて決勝に進出したことによるものです。カテゴリの降格はクラブの財政的な運営に影響を与えますが、欧州の大会に行けるかいけないかがどのような影響を与えるか分かり易く示しています。
2022年度に戻ると、営業収益については、Swiss Rambleさんの区分に基づきますが、マッチデ―収入、放映権収入、及び商業収入と構成する全ての項目で増加しました。当シーズンのクラブの増収については、マッチデー収入がゼロから17.1百万ユーロに、放映権収入が14.4百万ユーロから21.8百万ユーロに7.4百万ユーロ(51%)増加したことが主な要因です。商業収入も47.4百万ユーロから48.3百万ユーロと微増となりました。
なお、フェイエノールトの会計処理として、入場料収入と一部の欧州の賞金は「大会」収入に含まれていますが、上の表では後者について、他のクラブと同じように放映権収入に分類し直しています。
◆エールディビジ クラブ別営業収益
(出所:Swiss Rumble)
◆アヤックス・PSV・フェイエノールトの営業収益推移
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの収益は、基本的に主要なライバルであるアヤックスやPSVよりも低い水準にあります。過去10年間でフェイエノールトが両クラブを上回っていたのは、2018年のチャンピオンズリーグ出場権獲得時だけです。それ以来、アヤックスとの差は102百万ユーロと大幅に広がっています。フェイエノールトとPSVの営業収益の差はわずか6百万ユーロですが、アヤックスとフェイエノールトの営業収益の差は倍以上と、エールディビジにおけるアヤックスの突出ぶりは明らかです。その一方でフェイエノールトの収入は、次に多いAZの33百万ユーロより50百万ユーロ以上多く、やはりオランダは(一応)3大クラブが牽引していることがわかります。
なお、選手売買の移籍金については、Jリーグの損益計算書では営業収益(売上高)のその他に分類されますが、日本の損益計算書のイメージでは営業外損益のイメージです(要は営業収益(売上高)に含めません)。つまり、損益計算書の体裁としては、売上高からクラブ運営のための費用を引いて営業利益。さらに減価償却を引いて、金融の損益を足し(一般にマイナス)、そこから更に更に選手売買の差っ引きを足して税引前利益のイメージです。このため、選手売買の関連は営業収益とは別の枠で追ってコメントします。
なお、海外では一般的に経常損益という項目はありません。
マッチデー収入
フェイエノールト マッチデー収入推移
(出所:Swiss Rumble)
マッチデー収入は入場料収入や当日の飲食販売等を含むものです。2021/2022シーズンは非公開試合または収容人数に制限が設けられた試合があったものの、前シーズンと比べスタジアムにファンが戻ったことにより、ゼロから17.1百万ユーロに増加しました(※本数値は、欧州のテレビマネーを競技会収入から放送に分類し直した推定値です)。本収入は、チャンピオンズリーグに進出した2017/18年のシーズン以来の高水準となりました。クラブのアニュアル・レポートによるとコロナの影響で6試合(リーグ戦5試合、欧州戦1試合)が観客なしで行われたとのことです。この無観客試合の収益があれば更に数字は伸びました。
エールディビジ クラブ別マッチー収入
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトのマッチデ―収入はPSVの17.7百万ユーロに次ぐオランダ第3位の規模になります。とは言えアヤックスの34.2百万ユーロの半分にすぎず大きく水を開けられています。
フェイエノールトの平均観客動員数は、当局による収容人数制限の影響で2021/22シーズンは29,679人と減少したものの、それでもエールディビジで2番目の多さでした。
フェイエノールトの平均観客数
(出所:Swiss Rumble)
コロナ前の2018/19シーズンにおいては、フェイエノールトの観客動員数は42,000人で、アヤックスの52,000人には1万人及ばなかったものの、PSVの34,000人に対しては8,000人上回る数値でした。
エールディビジ2021/2022シーズン平均観客数
(出所:Swiss Rumble)
エールディビジ2018/2019シーズン平均観客数
(出所:Swiss Rumble)
放映権収入
放映権収入はテレビ等への放映権に関する収入です。
◆フェイエノールト 放映権収入の推移
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの放送収入は14.4百万ユーロから21.8百万ユーロと7.4百万ユーロ(51%)増加し、前回2017/18シーズンのチャンピオンズリーグでの33.1百万ユーロを下回るのみで、過去10年で2番目に高いクラブ収入となりました。これは、アヤックスの73.8百万ユーロの3分の1以下となりますが、エールディビジでは3番目の規模になります。フェイエノールトは、国内大会から7.5百万ユーロの放映権料収入を受けました。エールディビジは2013/14シーズンからFoxと12年間の契約を結び、クラブの過去の成績(過去10年間の成績)に基づいた分配が行われるようになりました。つまり、アヤックスが最も多く、次いでPSV、フェイエノールトの順となります。
◆エールディビジ クラブ別放映権収入
(出所:Swiss Rumble)
欧州大会のテレビ収入
フェイエノールトは、ヨーロッパカンファレンスリーグ決勝に進出した結果、2021/22年にヨーロッパの大会において13.6百万ユーロを稼ぎ出したとみられます。同大会はUEFAのジュニア大会とはいえ、9.8百万ユーロというそれなりの規模の賞金となりました。結果、ヨーロッパリーグのグループリーグを突破できなかった前シーズンの6.5百万ユーロの2倍以上の金額になります。フェイエノールトが2021/22年以前に欧州の大会でグループステージを突破したのは、2014/15年に遡ります。
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトはヨーロッパ・カンファレンスでの成功により、もともとより格式の高いヨーロッパ・リーグで戦っていたPSVよりも実際にヨーロッパから多くの収入を得たと推察されます。しかしながら、チャンピオンズリーグに出場したアヤックスは、その5倍近い63.4百万ユーロを手にしたと言われ、大きな差が生じています。このため、もしフェイエノールトが今シーズンのエールディビジで首位をキープすることができれば、財務的にも大きな躍進を見込むことができます。過去5年間、アヤックスはチャンピオンズリーグでの活躍により2,500百万ユーロを稼ぎ出しました。これはPSVの62百万ユーロ、フェイエノールトの52百万ユーロの約4倍です。
それにしてもアヤックスのCLでの稼ぎっぷりが目立ちます。フェイエノールト、PSVの5倍程度の差もそうですし、63.4百万ユーロという事は日本円で約90億円。神戸1チーム分くらいの売上を作り出しています。
商業収入
商業収入はスポンサー収入、広告収入、及び商品販売などです。
フェイエノールト商業収入の推移
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの商業収入は、47.4百万円から48.3百万ユーロと0.9百万ユーロ(2%)の微増となりました。パートナーシップ28.7百万ユーロ、マーチャンダイジング1.3百万ユーロ、その他の収入6.6百万ユーロから構成されています。パートナーシップで7.3百万ユーロ(34%)、マーチャンダイジングで1.2百万ユーロ(10%)増加しましたが、その他の収入が7.6百万ユーロ(53%)減少したことでほぼ相殺される形となりました。パートナーシップに関しては、前期は、トップチームを題材としたディズニーによるドキュメンタリー作成の収益が含まれていたことから、その分が剥落しています。このため、実際のパートナーシップの成長率は2%よりもっと高かったと言ってもいいでしょう。
その他の収入が大きく減少した要因は、前シーズンは政府のCOVID補償制度とサポーターによる未使用チケットの払い戻し放棄によって大きく増えたという特殊要因が影響しています。
エールディビジクラブ別商業収入
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの商業収入48.3百万ユーロは、エールディビジで2番目に高い数字です。PSVの47.4万ユーロとほぼ同じ水準ですが、アヤックスの81百万ユーロを大きく下回っています。
2021/22シーズン、ホリデーパークスとEuroParcsは、5.5百万ユーロでDroomparkenに代わりシャツスポンサーとなりました。なお、両スポンサーは、前シーズンのKNVBカップとヨーロッパリーグのスポンサーでした。
2014/15シーズンからはアディダスがキットサプライヤーを務めていましたが、2023/24シーズンから6年契約で50百万ユーロ(1シーズン8.3百万ユーロ)相当の契約規模でカストーレとなることが発表されています。
営業費用
営業収益が増える一方、営業費用も前期の83.4百万ユーロから102.4万ユーロと1.9百万ユーロ(前期比23%増加)増加しました。人件費は37.3百万ユーロから48.2百万ユーロに10.9万ユーロ(23%)増加し、選手の償却費は16.6から15百万ユーロに1.6百万ユーロ(10%)減少しました。その他の費用については、主に試合開催費用の増加により、26.7百万ユーロから36.1百万ユーロ9.4百万ユーロ(前期比35%増加)増加し、支払利息は0.4百万ユーロから0.8百万ユーロへと倍増しました
◆フェイエノールト 人件費及び人件費率推移
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの人件費は、37.3百万ユーロから48.2百万ユーロ10.9百万ユーロ(23%)増加しましたが、これはヨーロッパカンファレンスリーグに係るボーナス、人員増加(平均従業員数は257人から277人に増加)、及びCOVIDによる前年の給与削減の反動が要因です。
◆エールディビジ クラブ別人件費
(出所:Swiss Rumble)
過去5年間、フェイエノールトの人件費は35百万ユーロ~39百万ユーロの範囲にとどまっていたので大きな増加となりました。とはいえ、フェイエノールトの人件費48.2百万ユーロは、アヤックスの109.4百万ユーロの半分以下、PSVの55.2百万ユーロをも下回っています。一方、4位のAZの2,530万ユーロに対しては約2倍の規模です。増収に伴い、フェイエノールトの売上高に対する人件費の比率は60%から55%に改善されましたが、それでも過去10年間で2番目に高い水準となりました。
◆エールディビジ クラブ別人件費率
(出所:Swiss Rumble)
とはいえ、同数値はエールディビジでは低い水準で、アヤックスの58%、PSVの59%を下回ります。デロイトのマネーフットボールリーグ2022によると、マンチェスター・シティが62%、レアル・マドリードが63%、バルセロナが84%、マンチェスター・ユナイテッドが65%なので、良好な収益体質であると言えます。
移籍金償却費
◆フェイエノールト 移籍金償却費推移
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの移籍金償却費は、16.6百万ユーロから15百万ユーロに1.6百万ユーロ(10%)減少しました。これは、エージェントフィーに関する税務当局との和解契約の影響によるものです。
◆エールディビジ クラブ別移籍金償却費
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの移籍金償却費は過去5年間で50%以上増えて15百万ユーロになったものの、アヤックス57.1百万ユーロ、PSV29.6百万ユーロの半分の約4分の1に過ぎません。これは当然ながら緊縮財政の流れの中で、移籍金の負担を回避してきた補強戦略の結果でしょう。
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