その他の費用
フェイエノールトのその他の費用は26.7百万ユーロから36.1百万ユーロに9.4百万ユーロ(35%)増加しました。これは、当シーズンに観客動員が回復したことから、試合開催費用が例年レベルまで戻ったためです。
◆フェイエノールト その他の費用の推移
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトのその他経費36.1百万ユーロは、アヤックス75.3百万ユーロ、PSV41.4百万ユーロを大きく下回るエールディビジ3位です。
◆エールディビジ その他の費用
(出所:Swiss Rumble)
選手の移籍
フェイエノールトの2021/22シーズンの選手購入費は18.2百万ユーロと前シーズンの13.3百万ユーロより約5百万ユーロ増加しました。選手の売却収入を差し引いた純支出は10.7百万ユーロとなりました。
◆フェイエノールト 選手購入支出と売却収入の推移
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの過去5年間の総支出額は83.5百万ユーロですが、さらにその前の5年間である2013-17の総支出額43.2百万ユーロの約2倍です。また、両5年間に関して選手獲得のための支出を差し引いた数字でみますと、2013-17の5年間は13.1百万ユーロの純収入でしたが、2018-2022は39.9百万ユーロの純支出へと転じています。つまり2013-17シーズンまでは財務改善、2018-2022はチーム強化と移籍市場での活動の姿勢に変化が見られます。
この傾向は今シーズンも続いており、エゼキエル・ブラウデ(ゴドイ・クルス)、クインテン・ティンバー(ユトレヒト)、ダビド・ハンコ(スパルタ・プラハ)、イゴール・パイシャオ(コリチバ)、ジャバイロ・ディロスン(ヘルタ・ベルリン)、サンティアゴ・ヒメネス(クルス・アズル)など、約38百万ユーロをつぎ込み選手を積極的に補強しています。
とはいえ、Transfermarktによると、フェイエノールトは2022/23(1月の移籍市場を除く)までの5年間ではエールディビジで3番目に高い60百万ユーロの移籍金を記録したものの、これはアヤックスの299百万ユーロの2割程度の金額にとどまります。
エールディビジでは、1クラブ(フィテッセ)を除き、過去5シーズンの選手売却額がすべて純収入となっており、欧州におけるオランダサッカーの位置付けを示しています。つまり、選手の輸出国ということです。フェイエノールトは48百万ユーロを売り上げましたが、これは主要ライバル3チーム(アヤックス308百万ユーロ、PSV106百万ユーロ、AZ96百万ユーロ)よりはるかに少ない数字となっています。
スカッドコスト
市場価値ではなく貸借対照表上の無形固定資産としての選手の帳簿価格をベースにして算出したフェイエノールトの「スカッドコスト」は、選手売却に伴い2年連続で減少し、43.3百万ユーロとなりました。
◆フェイエノールト スカッドコストの推移
(出所:Swiss Rumble)
これまでで最も高かったのは2018年の55.1百万ユーロです。それでもこの数値をアヤックス、PSVと比較すると下表の通りで、大きな差があります。
◆アヤックス・PSV・フェイエノールトのスカッドコストの比較
(出所:Swiss Rumble)
営業損益
◆フェイエノールト 営業損益推移
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの営業損失(選手売却益と利息を除く)は、21.2百万ユーロから14.4百万ユーロに縮小しました。クラブが本業の儲けを示す営業利益においてプラスとなったのは、過去8年間で前回のチャンピオンズリーグ(2017/18シーズン)の7百万ユーロの1回だけです。
◆エールディビジ クラブ別営業損益
(出所:Swiss Rumble)
しかしながら、オランダの他のトップ3クラブの営業損失ははるかに大きく、アヤックス64.6百万ユーロを筆頭に、PSV41.6百万ユーロ、AZ17.8百万ユーロと続いています。これらクラブのビジネスモデルは、多額の営業損失を選手売却で補うというもので、オランダのクラブの特徴と言えるでしょう。
選手売却益
◆フェイエノールト 選手売却益推移
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの選手売却益は、3.8百万ユーロから5.6百万ユーロと50%近く増加しました。主にスティーブン・ベルグハウスをアヤックスに売却したほか、ブライアン・リンセンを浦和レッドダイヤモンズ、ワウテル・バーガーをバーゼル、リドゲシアーノ・ハプスをヴェネツィアへの売却益が含まれています。
◆エールディビジ クラブ別選手売却益
(出所:Swiss Rumble)
それでも、PSVアイントホーフェン44.2百万ユーロ、AZ41.4百万ユーロ、アヤックス37.8百万ユーロなど、ライバルクラブと比べ、物足りない数字です。
フェイエノールトは選手売却による利益が比較的少なく、過去5年間で10百万ユーロ以上を達成したことは1度もありません。2015年から2017年までの3年間は平均14.4百万ユーロだったのとは対照的です。
◆エールディビジ クラブ別選手売却益推移
(出所:Swiss Rumble)
選手売買はフェイエノールトの弱点となっています。過去5年間の利益31百万ユーロはアヤックスの320百万ユーロの10%以下、同期間のPSVとAZの利益はそれぞれ145百万ユーロと99百万ユーロです。ヘーレンフェーンやユトレヒトよりもさらに少ない状況です。
しかし、今期は45百万ユーロから50百万ユーロの「かなりの」売り上げが実現したとクラブは公表しているようです。プレミアリーグへの移籍により高い収益を実現しました。ルイス・シニステラはリーズ・ユナイテッドへ、ティレル・マラシアはマンチェスター・ユナイテッドへ、マルコス・セネシはボーンマスへと移籍しています。更に、ベンフィカに対しフレドリック・アウスネスを売却し収益を確保しました。
利益/損失の推移
◆フェイエノールト 税引前損益推移
(出所:Swiss Rumble)
上述の通り選手売却益が3.8百万ユーロから5.6百万ユーロに増加したことにより、税引前利益は17.8百万ユーロから9.7百万ユーロに減少しました。
フェイエノールトは4年連続で税引前赤字を計上し、合計44百万ユーロの赤字を計上しました。最後に黒字にできたのは2017/18年です。しかしながら、理事会は、先述の2022年夏の選手高額売却のおかげで、今期の税引後の損益利益は「プラス」になるはずだとコメントしています。
◆エールディビジ クラブ別税引前損益
(出所:Swiss Rumble)
税引後純損失は、税額控除が0.9百万ユーロから5.2百万ユーロに増加したことにより、16.9百万ユーロから4.5百万ユーロに12.4百万ユーロ改善しました。改善されたものの、フェイエノールトの税引前損失9.7百万ユーロは、アヤックスの31.7百万ユーロに次いでオランダワースト2位になります。エールディビジでは、AZの24.3百万ユーロ、フローニンゲンの11百万ユーロを筆頭に、18クラブのうち半数が黒字を確保しました。
負債
BSサイドの話をしましょう。
◆フェイエノールト 借入金と負債の推移
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの金融負債は10百万ユーロから7.6百万ユーロに減少しました。これは主に2百万ユーロの債務免除によるものです。残りの借入金については、3ヶ月物Euriborレート+2.5%での金利が課されています。さらに、ABNアムロとの間に6.25百万ユーロの短期融資枠がありますが、このほとんどは未使用です。クラブは過去10年間のうち、1年を除いてすべていわゆるネットキャッシュの状況です(現金から債務を差し引いて、現金が残る状況)。
◆エールディビジ クラブ別負債額
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの負債は、財務に関し保守的なエールディビジでも少ない方です。アヤックスの145.9百万ユーロはリース債務で、借入はゼロです。PSVが45.9百万ユーロ、トゥエンテが21.8百万ユーロの債務を有し、フェイエノールトよりかなり高い水準にあります。
なお、フェイエノールトは、主に給与税に関して、別途約19百万ユーロの税金と社会保障費の負債を抱えています。
移籍金債務
◆アヤックス・PSV・フェイエノールト 移籍金債務の比較
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの移籍金債務は1.7百万ユーロから2.4百万ユーロにわずかに増加したものの、これはまだ非常に低い水準です。PSVの38.4百万ユーロ及びアヤックスの23.2百万ユーロと比較しても大幅に少ないです。
キャッシュフロー
◆フェイエノールト 2022シーズンのキャッシュフロー
(出所:Swiss Rumble※本ブログ加工)
17.3百万ユーロの非現金支出の勘定科目を足し戻し、5.7百万ユーロの運転資本の動きで相殺したフェイエノールトの2021/22年の営業キャッシュフローは、2.8百万ユーロの支出となりました。6.4百万ユーロの選手売却によって押し上げられたものの、その後クラブは選手購入に10.9百万ユーロ、インフラに0.6百万ユーロ、利息に0.5百万ユーロ、融資に0.4百万ユーロを支出したことによるものです。財務キャッシュフローについて、3.9百万ユーロの増資を行い、当期合計では4.9百万ユーロの純支出となりました。
◆フェイエノールト キャッシュフローの推移
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの現金は13.8百万ユーロから8.9百万ユーロに減少しました。これは、コロナの影響によりやむを得ないところもありますが、クラブとしては通常より低い水準です。とはいえエールディビジではアヤックスの20.4百万ユーロを抜いて2番目に多い現金残高となります。
◆エールディビジ クラブ別現金残高
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトの過去10年間のキャッシュ72.3百万ユーロの大部分は、営業活動によって生み出され、一部は借入金と株式資本によって調達されています。主な支出は、資本支出28百万ユーロ、選手購入(純額)24.9百万ユーロ、配当金6.4百万ユーロです。
◆フェイエノールト過去10年間の資金調達と支出・運用
◆フェイエノールト 配当の推移
(出所:Swiss Rumble)
フェイエノールトは、3年連続で株主への配当を行なっていません。フレンズ・ オブ・ フェイエノールトは、4%の配当(チャンピオンズリーグ出場権を獲得した場合は6%)を受ける権利を持っていますが、これは財政状況として支払い可能な場合に行われます。
このため、出資後3年間は無配でしたが、その後5年間は計6.4百万ユーロの支払いがありました。
ファイナンシャル・フェアプレー
KNVBは毎年、財務格付けシステムによってクラブの財務状況を評価します。FRSが15点以下の場合、クラブはライセンス委員会にアクションプランを提出しなければなりません。フェイエノールトの2021/22年の格付けは16点なので該当しませんでした。
今後の課題
財務的な問題の解決が見えつつあるフェイエノールトですが、乗り越えるべきハードルはまだまだあるようで、以下の3つは注目すべきテーマです。
スタジアム建て替え
フェイエノールト・シティは、ロッテルダムで行われている都市開発プロジェクトです。
フェイエノールト・シティは2030年までに完成する予定でした。このプロジェクトでは、63,000人の観客を収容できる新しいスタジアム、現在のスタジアムであるデ・クイプの改修、住宅、商業、公共空間の複合施設が計画されていました。新しいスタジアムは川沿いに建設され、北側に大きな開口部を持つ特徴的なデザインになっています。スタジアムには可動式の屋根とピッチも設けられる予定でした。
◆フェイエノールトシティ 構想事例
(出所:METALOCUS HP)
フェイエノールト・シティの公共空間には、スポーツ体験センター、スポーツフィールド、映画館、レストラン、ホテル、ショップなどがあります。このプロジェクトは、住民や訪問者にとって魅力的で活気のあるエリアの創出を見込んでいました。しかしながら、クラブは昨年、金利の上昇に伴う費用の高騰により、当面の間、この計画を断念したことを発表しています。
なお、現況の現地は結構殺風景です。フェイエノールト地域は広い道に車がサーッと走り、味気ない集合住宅が並ぶような場所ですので、街に活気が出るプロジェクトだと思います。
◆現況
とはいえ、現在のような資材や金利が高騰する局面では、病み上がりの財務状況であるフェイエノールトが確かに無理をする必要はないでしょう。
NLリーグ
フェイエノールトの年次報告書では、監査役会より、エールディビジCVが計画している「NLリーグ」の創設を非常に厳しく監視し、この計画がプロサッカー、特にフェイエノールトにとってどの程度の利益をもたらすのか経営委員会と議論しているとのコメントがありました。NL Leagueとは、オランダの34のプロサッカークラブが提案した新しいリーグの構想です。このリーグでは、KNVB(オランダサッカー協会)から独立して、自分たちでリーグの運営や分配を決めることができます。しかし、アヤックスとフェイエノールトは、現時点でこの計画に賛成していません。KNVBとの関係を維持したいと考えているからです。また、本構想における欧州大会での収入の5パーセントを、リーグの他のクラブに分配するというアイデア合意に至らない理由の一つであると言われています。
マネジメントの安定
2022年9月、マーク・ケーヴァーマンスはフェイエノールトのCEOを退任しました。同氏は2021年6月にオランダサッカー協会の会長を辞任し、同職に就任したので、短い任期での退任です。
退任の理由は脅しにより自らと家族の身の危険を感じたことです。ケーヴァーマンの自宅の窓ガラスが割られ、敷地内がペンキで塗りつぶされたということがあったそうです。
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