フェイエノールトの債務超過解消

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3強への復帰が見えてきた

今シーズン、フェイエノールトはエールディビジで首位を走り、6年ぶりの優勝に向け、好調なシーズンを送っています。2016/2017シーズンはエールディビジを18年ぶりに制しました。2021/22シーズンにはUEFAに新設されたヨーロッパカンファレンスリーグのファイナルに進出しています。

このように、復活の兆しが見えるフェイエノールトですが、2010年10月24日フェイエノールトはPSVに対し、10-0という衝撃的なスコアで破れ、今でも語り草になっています。オランダ3強の一角に数えられるフェイエノールトですが、2000年代からしばらく、エールディビジでは実質アヤックスとPSVの2強+1の、+1に甘んじていました。そして今、財務的なリハビリをようやく終えようとしています。今回投稿では債務超過の解消、次回では改善を見せている現在の財務状況についてまとめたいと思います。

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PSV 10- 0 Feyenoord

2010年当時、フェイエノールトは多額の負債と自己資本不足により、クラブの存続が危ぶまれる状態に陥りました。これは、多額の投資を行ったにもかかわらず、チャンピオンズリーグへの出場権獲得に失敗したことが原因でした。
財政難に際し、サポーターグループ「フレンズ・オブ・フェイエノールト」が金融支援として3300万ユーロでクラブの株式の49%を取得することにより、破産はかろうじて免れることができました。

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Vrienden van Feyenoord

2009-2010年シーズン、債務超過となりクラブの存続が危ぶまれていたことを受け、ピム・ブロックランド氏を中心とする富裕層のフェイエノールトサポーターのグループが、Vrienden van Feyenoord(Friends of Feyenoord、以下、VvF)という名称で、クラブを支援することを決定しました。VvFは、約30名の個人および企業で構成されますが、ピム・ブロックランド氏は、VvFの理事の一人であり、スポークスパーソンとしての役割を担っています。ピム・ブロックランド氏はオランダの実業家で、ブロックランド・ホールディングスという会社を運営しており、スポーツ用品の販売等を行っています。
VvFはクラブとの協議の結果、最終的にVvFの設立と約30の関係者から集めた最大3260万ユーロ(うちプレミアム260万ユーロ)の出資について合意しました。VvFは、クラブの株式の過半数を保有することを望まないとして、出資比率を49%にとどめました。残りの51%の株式は、Stichting Continuïteit Feyenoord(以下、STICO)が保有しています。

Stichting Continuïteit Feyenoord

STICOはクラブ内の最高機関の1つです。特に、いわゆる「黄金株」を管理し、特別な管理を行うとともに、クラブの「文化遺産」を保護するものとしています。このため、クラブはSTICOの同意がない限り、以下の事項に関する決定を下すことができません。
・クラブの名称の変更
・クラブの主要事業の変更。
・クラブのロゴまたは色の変更
・ユースアカデミーの構造に対する本質的な変更。
・KNVBの会員資格および/または(ライセンスの保有に)直接影響する決定。
・トップチームのホームマッチを行う会場の変更。

また、STICOは大株主として、サッカークラブの取締役や監査役を任命する権利や、財務諸表を採択する権利などの法的権利を有しています。公式HPによると、STOCOの現在のメンバーは、Ivo Opstelten(会長)、Pim Blokland、Michiel Gilsing、Hans Vervat、Dick van Wellの5名です。BloklandとVervatはVvFの代表、GilsingはHet Legioenの代表、OpsteltenとVan WellはFeyenoordの代表を務めています。Blokland氏以外のメンバーの職業は次の通りです。Ivo Opsteltenはオランダ与党の大物政治家、Michiel Gilsingはロッテルダムに本社を構える上場企業Royal VopakのCFO、Hans VervatはIT会社Oranje Consultancyのマネージングディレクター、Dick van WellがDura Vermeerという建設会社の会長です(会長はすでに引退した模様)。いずれもビジネスマンという商業都市ロッテルダムらしい顔ぶれです。

VvFの出資に対する対価

クラブがUEFAチャンピオンズリーグのグループリーグに出場しない年は、VvFは年間4%の現金配当を受け取ることとしました。クラブがUEFAチャンピオンズリーグのグループリーグに出場した年については、最大6%の配当が支払われることとしました。但し、配当の支払はクラブの業績および財務状況が許す場合にのみ行われます。また、VvFには、100万ユーロ投資するごとに、ビジネスシート4席、駐車許可証1枚、経験権(当該権利の詳細は不明)などが提供されることとしました。加えて、VvFはクラブの監督機関、取締役会、大株主のSTICOのうち、フェイエノールトの継続性、アイデンティティ、文化遺産を保護する責任を負う2名を指名する権利が与えられました。

実際の配当の支払については、最初の3シーズン(2010-2011、2011-2012、2012-2013)は無配でした。次の5シーズンは配当が行われたものの、2018-2019シーズンは再び無配となりました。結果、過去10年間の平均では、VvFは1シーズンあたり2%の配当を受けています。クラブのHPから以降の配当支払いについての記述は見つかっていませんが、直近は3期連続で当期純損失を計上しているので無配であると思われます。

2018年6月の条件変更

VvFとフェイエノールトは、2018年6月に目標と合意事項の見直しを行いました。結果、VvFの目標であるフェイエノールトを財政的に健全化が進捗したためVvFは撤退を議論する時期が来たとし、フェイエノールトとVvFは、今後数年間の目標として、フェイエノールトを保護する形でVvFを段階的に買い取ることに合意しました。買取は、フェイエノールトに財務的な余力がある場合に限るとしています。
出資条件の変更もなされました。ほとんど使われていなかった経験権が廃止となり、年間配当は4%以下から2%以下に引き下げられ、配当支払については引き続きクラブの業績と財務状況が許す場合にのみ支払われるという条件が付されました。この結果、2019年もVvFに対しては無配となりました。修正された契約によると、無配が発生した年の翌年はクラブの手元流動性が許す限り3%の配当が支払われることとされました。

VvF保有株買い戻しの条件

当該条件変更にあたり、クラブとVvFは、クラブによるVvFからの株式買戻しの手続と条件についても合意しています。クラブは、VvFが2010年に購入した株式と同じ価格で、VvFが保有する株式を買い戻すこととしています。このため、クラブはその間に株式の価値が上昇した場合、その利益を放棄することになります。クラブは希望するときにいつでも株式を買い戻すことができますが、買い戻しは数年に渡って行われることが想定されています。毎年の株式買い戻しの規模は、欧州サッカーからの純収入の15%、移籍による収入の20%と定められました。フェイエノールトは、2年連続でVvFへの配当がない場合、株式を買い戻す義務が発生するものの、その時点のクラブの手元流動性にその余地がない場合は株式を買い戻さないという選択も可能です。

2018年および2019年には、460万ユーロに相当する株式およびプレミアムがVvFから買い戻されています。その後のVvF保有株の買い戻しの進捗に関して確認できていません。

先述の得点として与えられたVvFが利用できるビジネスシートの数は、VvFの出資比率の減少に比例して減少し、監督委員会メンバーおよびSTICOの取締役をいつでも指名できる権利は1つに制限されるか、あるいは失効します。買い戻された株式は、18ヶ月以内にVvFの許可なく他の投資家への売却が認められていません。

VvFは、フェイエノールトから過去2年間に株式の売却で得た資金を、2010年にSupporters Steunen FeyenoordとしてVfVに100万ユーロを投資した企業やサポーターに返済に充当しました。サポーターはその払い戻しされた金額のうち約70万ユーロをアカデミー発展のためにフェイエノールトに提供することとしています。

所見

フェイエノールトの債務超過解消のための上述の資本注入スキームは、両者が受け入れられるギリギリの点をいい感じで突いていると思います。
年間配当4%は世界的な低金利の中では金融商品としてはそれなりの妙味があります。ビジネスシートや駐車許可証等の特典も熱烈なサポーターとしてはメリットを感じるものだと思います。とはいえ、投資対象が債務超過の主体ということということを考慮すると、リスクに見合ったものではありません。しかしながら、クラブを支えることが大前提の上、本件増資の話が進んだのでしょう。リスクを鑑み、それ以上の水準の配当を求めることになれば、資金繰りを圧迫することになるものと推察されます。
その他の条件に関してですが、資金繰りが苦しい際は配当がスキップできる点や無配の場合のペナルティの内容など、資金繰りに最大限の配慮を感じます。買い戻しの条件にしてもそうです。ハゲタカ的な投資家であれば、それら全ての点で高水準かつ、数値に縛った厳しい条件が課されることでしょう。
STICOとVvFのメンバーが重なっていることは一つの留意すべき点です。重複メンバーが交渉や意思決定に関与する場合、利益相反が発生する可能性があります。しかしながら、VvFの側としては内情を知っているメンバーが存在するゆえクラブを支えたいという意思とともにクラブが破綻することはないという手応えも持つことができ、踏み出せたという利点はあったのではないかと思います。
もう一つ気になるのは、経営危機時に内紛が発生しなかったのかという点です。危機の際は責任追求や派閥の争いが発生するものです。当時の経緯までは追いかけられないのですが、まとまったので結果オーライということでしょう。
フェイエノールトの事例は、クラブの債務超過解消の一例として参考になるものと考えます。また、当ブログで投稿させていただいた大分の事例と比較しても面白いと思います。
現状のフェイエノールトの財務状況について、次回以降でまとめていきます。

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