サガン鳥栖の財務状況
サガン鳥栖の経営危機が取り沙汰されています(参考記事)。 この状況について、貸借対照表から確認してみたく、Jクラブ個別経営開示資料(2018年度)を確認しました。
下表が現時点で最も新しいものとして開示されている2018年度末の鳥栖の貸借対照表です。
この表の中で絶対額として注目すべきは「資本」の部です。 資本金+資本剰余金が22億2,900万円と2018年度J1リーグ2018年度トップです。表にはしていませんが、2位が鹿島(17億1,700万円)、3位が札幌(16億6,300万円)、4位がFC東京の11億8,700万円、5位が柏の10億3,200万円と続きます。
この金額だけを見ると、鳥栖がまるで巨額の資本を持つビッグクラブの一角に食い込んでいるようにも見えます。しかしながら、この状況は利益剰余金の額を見ると景色が変わります。利益剰余金の金額を見ると2位鹿島が4億4,900万円、3位札幌はマイナス9億8,800万円、4位FC東京は10億4,400万円、5位柏はマイナス100万円です。そして鳥栖の利益剰余金は表にてご覧の通りマイナス21億9,300万円と巨額のマイナスを計上しています。利益剰余金のマイナスというのは何を意味するかというと、これまでの累積損失です。過去にマイナスを出し続けてきたということです。資本金+資本剰余金がJ1トップであるにもかかわらず大きな利益剰余金のマイナスがあるため、純資産額はたった3600万円とJ1リーグ17番目の順位となり、脆弱な財務体質であることが浮き彫りになります。次の期(2020年1月期)に3600万円以上の赤字を出すと債務超過になってしまいます。2020年1月期の決算発表はこれからですが、このバタバタからするとそうなってしまっている可能性が高いのではないかと思っています。
財務体質の強固さを見る
では、この状況を財務分析で使われる指標を通じて他のチームと比較してみましょう。 まずは自己資本比率です。自己資本比率とは、高いほど「中長期的に見て倒産しにくい会社」と考えられます。資本構造の手堅さを見られると言ってもいいでしょう。2018年度J1リーグの自己資本ランキングは以下の通りです。
J1自己資本比率ランキング | |||
チーム | 自己資本比率 | 純資産 | |
1 | FC東京 | 86% | 2,231百万円 |
2 | 広島 | 66% | 933百万円 |
3 | 鹿島 | 64% | 2,166百万円 |
4 | 磐田 | 62% | 1,082百万円 |
5 | 川崎F | 54% | 1,540百万円 |
6 | 浦和 | 49% | 1,557百万円 |
7 | 仙台 | 41% | 698百万円 |
8 | 柏 | 41% | 1,031百万円 |
9 | 札幌 | 36% | 674百万円 |
10 | 名古屋 | 32% | 741百万円 |
11 | G大阪 | 29% | 513百万円 |
12 | 神戸 | 28% | 1,060百万円 |
13 | 長崎 | 23% | 116百万円 |
14 | 湘南 | 16% | 106百万円 |
15 | C大阪 | 12% | 126百万円 |
16 | 清水 | 3% | 24百万円 |
17 | 横浜FM | 3% | 46百万円 |
18 | 鳥栖 | 2% | 36百万円 |
ちなみにこの数字が低い場合、数値としては好ましくありませんが、機動的に資金を追加投入できる親会社があれば数値が低くても問題がないと考えられます。このため、この数値が低い独立系(または親会社の財務体質が強固ではない)のチームは堅実な財務運営が求められます。
このランキングの中で最も注視すべきはやはり最下位の鳥栖です。そして清水と湘南が続きます(マリノスはシティ+日産、セレッソは日ハム、長崎はジャパネットがありますので)。自己資本比率がどれだけがあれば十分かは業界ごとに異なりますが、一般論で言うと30%以上あれば「とりあえずまあいいでしょう」と考えられるのではないかと思います。そう考えると、鳥栖の2%は極めて心配で、オリジナル10の一角である清水も同じような水準にあることは驚きかつ気になるところです。
目先現金の支払いに窮するリスクを見る
続いて流動比率も見てみましょう。流動比率とは、「1年以内に返済すべきお金を流動資産で賄えているかを表す」(引用)企業の支払能力を示す数値です。100%あれば、1年以内に支払不能になる可能性が低いことを意味しています。2018年度J1チームの流動比率ランキングは下表の通りです。
J1流動比率ランキング | ||
チーム | 数値 | |
1 | FC東京 | 632% |
2 | 広島 | 266% |
3 | 札幌 | 259% |
4 | 鹿島 | 203% |
5 | 磐田 | 154% |
6 | 仙台 | 141% |
7 | 湘南 | 111% |
8 | 長崎 | 105% |
9 | 浦和 | 100% |
10 | 神戸 | 92% |
11 | 横浜FM | 82% |
12 | 川崎F | 77% |
13 | 鳥栖 | 65% |
14 | C大阪 | 64% |
15 | 清水 | 53% |
16 | G大阪 | 38% |
17 | 柏 | 31% |
18 | 名古屋 | 31% |
鳥栖については63%という数字がどれだけ厳しい状況を示すかというのはなんとも言えませんが、ボトム1/3ではあり良好な数値とは言えません。そして、やはり清水も心配です。
資金調達期間のバランスを見る
次に、固定長期適合率をみていきます。固定長期適合率とは、「固定資産を取得するための資金を、自己資本と自己資本に近い長期の借入金で賄えているかを判断できる、つまり「会社の資金運用がきちんとできているか」を判断することができる」数値です。もう少し言い換えると、長期の分割払いに対し、短期でお金を借りていないか(その度に借り換えが認められないと、資金繰りに行き詰まるということです)。資金調達の原則は、短期の債務に対しては、短期または長期の借入(長期は後でいつでも返せば良い)。そして、長期の債務に対しては長期の借入が基本です。
鳥栖はダントツの最下位です。
固定長期適合率は100%を切ることが好ましいとされます。先ほどの引用元のサイト曰く「固定比率だけでなくさらに固定長期適合率まで100%を切ってしまうようだと、長期の支払い能力はなおさら危険であるということになります。このような会社は、事業活動に充てるため短期に返済する予定で集めたお金が、長期的な設備投資に流用されていることを意味するので、お金の使い方を間違っている、つまり「会社の資金運用がきちんとできていない」と判断されてしまいます。」ということです。なお、ここでもやはり清水は心配です。
繰り返されたギャンブル
と言うわけでいくつか財務分析の数値から鳥栖の状況をみてきたわけですが、やはり鳥栖は脆弱な財務体質であったと言えるでしょう。
そこで考えてみるべきは、この脆弱な体質(過去もよく見てみる必要がありますが)のチームが、トーレス、金崎、クエンカなどの高額な選手を獲得するというギャンブルが許されるかということです。
実際のところ、ギャンブルは勝てばいいと思います。賭けなければいけない時もあるでしょう(リスクヘッジの上で)。しかしながら、インターネットで調べてみると、昔から様々な経営の混乱を経験してきた鳥栖ですが、現在の竹原社長が就任してからも鳥栖は財務危機を繰り返し、以下の通り第三者割当増資を繰り返しているもようです。
2012年6月 1億7500万円
2014年8月 1億5000万円
2015年1月 2億2000万円
2019年1月 6億円
これは、財務的な失敗を繰り返し、その度に都度失敗を第三者割当増資を繰り返している。要はギャンブルに負け続けているわけです。その歴史を示しているのが先述の巨大な資本金と巨額なマイナスの利益剰余金です。お金が足りなくなって、増資を繰り返していることがそこでわかります。資本金額が同水準でも、鹿島やFC東京とそこの事情が違います(恐らく札幌は鳥栖と過去は同じような事情だったと推察されます。但し、札幌の場合は極めて良好な改善を見せている状況です)。
鳥栖の竹原社長は2011年に鳥栖の社長に就任し、J1昇格やトーレス招聘などでJリーグを盛り上げてくれました。私も一人のJリーグファンとしてその恩恵に預かっています。しかしながら、財務的な失敗を繰り返し、大口スポンサーであったcygames及び長年支えてくれたDHCを逃し、かつまた経営危機を招いた現経営陣は責任をとるタイミングと言わざるを得ません。
追記:2020年1月期の情報が一部出ましたので、取り急ぎレビューしました。よろしくお願いします。「サガン鳥栖 2020年1月期決算で20億円の赤字とその後」
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