2022年1月期サガン鳥栖決算レビュー:債務超過解消の道半ば

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債務超過との戦いは続く

サガン鳥栖の2022年1月期(2021シーズン)の決算がクラブから公表されました。

サガン鳥栖は何期にもわたって、債務超過との戦いを続けています。
2020年1月期は主力スポンサー離脱等により2,014百万円の記録的赤字を計上したものの、約2,000百万円の増資を行い債務超過をなんとか回避
2021年1月期決算ではコロナ禍により715百万円の赤字を計上し、693百万円の債務超過となりました。
今期は損益の黒字化や増資等の手段があるなかでどれほど債務超過額を圧縮できるかが焦点でしたが、220百万円の赤字を計上。昨年7月23日に450百万円の増資を行いましたが、債務超過回避には至らず464百万円の債務超過となりました(債務超過-693百万円+増資450百万円-当期損失220百万円=債務超過464百万円※各数値は小数点以下切り捨て)。

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収支について

2019年1月期〜2022年1月期主要財務数値推移

220百万円の当期損失となった収支について確認してみましょう。運営会社から開示された決算内容については、かなり簡略化されています。昨年度はより細かく内容を開示されていましたが、今回は費用の内訳が示されていません。

なお、夏になれば改めてJリーグからこれより詳細な全チームの決算数値を確認できますので、必要に応じて改めて記事を書きたいと思います(今期も全チームランキング等を投稿する予定です)。

2022年1月期の営業収入(売上高)は2,267百万円と前期比37%増加しました。

2022年1月期サガン鳥栖営業収益内訳

増収の最大の要因は興行収入によるものです。
興行収入は468百万円と前期比116%と前期比で2倍以上となりました。2021年1月期(2020シーズン)と比べコロナによる規制が緩和されたことによる入場者増によるものでしょう。
なお、広告料収入は652百万円と前期比17%増加となりました。
商品売上高は198百万円と前期比62%増加となりました。これも観客入場制限の緩和によるものでしょうか。
アカデミー収入は48百万円と前期比14%増加となりました。
その他の売上については、548百万円と前期比49%増加しています。
以上により、売上高は2,267百万円で37%増加となったものの、J1では恐らくボトムを争う水準でしょう。それにもかかわらず2021シーズンを7位で終えたことは称賛に値する結果です。というのは、全クラブの数値が確認できる2020シーズンにあてはめると、仙台(1,997百万円)、横浜FC(2,165百万円)、湘南(2,188百万円)と降格争いをするクラブの水準だからです。

費用については内訳が開示されていないので、営業費用+経常費用(損益)で総費用を確認すると、2,438百万円と前期比8%増加しました。この2,438百万円は営業収益に対し108%となります。しかしながら、前期の136%と比較すると、改善したと言えるでしょう。
追ってJリーグによる開示では内訳は判明しますが、恐らく収入が増えた分の原価ではないかと想像しています。例えばコロナによる規制の緩和による試合来場者増加に伴う警備費用の増加や、グッズ販売増加に伴う原価の増加などです。
結果、4期連続の赤字となる220百万円の当期純損失を計上しました。

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Jリーグクラブライセンスの維持

ここで問題なのは財務的な視点以上にJリーグクラブライセンス維持の観点です。
まず、通常であれば以下のいずれかに該当した場合、リーグの財務基準に抵触し、下位リーグへの登録となります。
①債務超過
②3期連続当期純損失の計上
サガン鳥栖の場合、①も②も該当しています。
しかしながら、コロナ禍という特殊な事情から各クラブには猶予が与えられました。
特例では、2023年度末までは債務超過を認容(しかし、前年度より債務超過額が増加してはいけない)。3期連続の赤字に係るカウントは2021年度までの年度はリセットし、2022年度の当期純損失を1期目としてカウント開始し、2024年度まで連続で当期純損失を連続で計上したらアウトとなります。但し、リーグからの開示では「「2022年度末から赤字が継続しているクラブは、 2024年度末に 3 期連続赤字に抵触する可能性がある」と含みあり)。
この結果、鳥栖が2024年度末まで(これから3年間)何をしなければならないのかというと、①1度でも当期純利益を計上する、②債務超過解消までに債務超過を増やしてはいけない、③債務超過の解消です。これら全てです。個別にみていきましょう。

①1度でも黒字を計上する

太いスポンサーを連れてくる一方、びっくりするような支出をした前社長が交代した今、クラブが収入と支出のバランスをいかに整えるかがポイントです。
2021年3月期はコロナ禍による規制がある程度緩和され、営業収益のリバウンドがみられましたが、これがこの先どれくらい通常時の水準に戻せるかが鍵です。
恐らく費用については、J1で戦うためにはこれ以上の圧縮は難しいでしょう。全クラブの収支が確認できる2020シーズンの営業費用+経常損益で確認する限り、2021シーズンの鳥栖(2,438百万円)より少ないクラブは、大分(1,913百万円)、横浜FC(2,024百万円)、湘南(2,326百万円)でしたので、J1で戦うためにはこれ以上の圧縮は困難と見られます。
一方、収益のアップサイドはまだありそうです。
下表は、コロナ禍の影響がなかった2020年1月期決算(2019シーズン)の営業収益と2022年1月期の営業収益との比較です。

コロナの影響がなかった2020年1月期との営業収益内訳の比較

今期の費用が維持されるなら、220百万円赤字を消して黒字を出すためにはざっくりいって300百万円の増収が必要(増収分への原価も見込んだもの)だとすると、なんとかなるのかなといった印象です。
2020年1月期はトーレスがまだ在籍していたシーズンであることから、興行収入と商品売上高は高水準であるというところを差し引いても、しっかり集客できれば3億円程度であれば興行収入で埋められそうです。

②債務超過解消までに債務超過を増やしてはいけない

この要件を達成するためには、a.そもそも債務超過を解消してしまう、b.当期純損失を計上しない、c.当期純損失を計上しても増資で相殺する、ということになります。どれも採用できる手段ですが、恐らくbが現実的でしょう。とすると、前号のポイントを踏まえ黒字化を定着させた上で次の項目である債務超過解消を図るのが現実的な方針になりそうです。

③債務超過の解消

債務超過の解消には、当期純利益の積み上げ又は増資によって実現します。実際には、両者の組み合わせにより実現することになります。
まず、目の前の経営に注力しつつ実現できるのは当期純利益の積み上げです。当期純利益を計上するためには、営業収益(売上高)の増加と費用の削減により当期純利益を確保します。最も良いのは営業収益を増やして増益又は当期純利益計上を図ることですが、経営は必ずしも実現するか読めない増収より、コントロールしやすいコスト削減に重きを置きがちです。特に、コロナ禍の影響を受ける昨今のご時世であればそうです。
ところが、サッカークラブの場合、そう簡単にコストの削減は図れません。サッカークラブの費用のうち概ね半分は人件費であり最大の比率を占めることとなるので、コスト削減に注力した場合、人件費に手を入れざるをえません。しかしながら、これは成績不振、ひいては降格を招く可能性が高くなります。この場合、成績不振や降格により営業収益は落ち込み、またコスト削減の必要が生じるという悪循環が発生します。
このため、サッカークラブのコスト構造を見る限り、クラブは可能な限り人件費に資金を充当しようとするため、損益トントンというクラブがほとんどです。
経緯は異なるものの、ファンドへの返済資金捻出のためコスト削減により高水準の当期純利益を計上(返済資金確保)しにいった大分の事例がありますが、その期間にJ3に降格しました。
長々と話してしまいましたが、結果、増資による債務超過解消が現実的な手段となるでしょう。
この時、増資先が現在の株式になるのか、新たな株主を募るのかがポイントとなります。

サガン鳥栖2022年1月期末時点の株主構成

(出所:クラブHP)
この時、既存の株主にしてみれば更なる支援をどう考えるかが問題になりますし、かといって第三者を株主に招くことになれば、出資比率が希薄化し、株主としての権限が薄まってしまいます。
また、一般の方からの出資もアリはアリですが、株主が多くなる分株主対応に関し、業務上の負担が増加する覚悟が必要です(私自身はこの策に肯定的です)。

いずれにせよ、どこかのタイミングで増資が行われると見込まれるので、その時の出資比率に注目したいと思います。

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