清水エスパルス:左伴前社長の種播きは実るか

ネガティブな財務状況が目に付く清水エスパルス

Jリーグチームの財務状況を調べていく上で、サガン鳥栖が大きな課題を抱えているためニュースとして取り上げられることが多いです。その中で、明らかな親会社(Jリーグでは責任企業という言葉が使われるようですね)を有するチームを除くと、清水の脆弱な財務状況が目につきます。
過去3年間のJ1リーグ 自己資本比率ランキング
上に掲げた表は過去3シーズンのJ1での自己資本比率のランキングです。自己資本比率とは、貸借対照表で見る会社の安全性を示す指標です。何%あればいいのかという絶対的な数値はないですが、業界ごとに概ねの水準があったりします。J1リーグの平均自己資本比率を計算すると、2017シーズン34%、2018シーズン35%、2019シーズン36%と綺麗に水準が収斂しました。そして、清水はというと、2018年1月期28%、2019年1月期3%、2020年1月期2%と大変低い水準に落ち込んでいます。2019年1月期に256百万円の当期赤字を計上したことが響いています。直近2020年1月期の純資産が25百万円ですので、今走っている期において25百万円を超える当期赤字を計上した場合、債務超過に陥ります。
現状の財政状態が悪い中、挽回するための清水の稼ぐ力を眺めてみましょう。
清水エスパルスとJ1リーグ平均 営業収益と人件費の比較
上図は営業収益とチーム人件費に関し、清水とJ1リーグ平均の推移を表したものです。勘定科目の取り扱いが現在のものと同じ(に見える)2011シーズンの損益計算書からまとめました。
結論から言うと、2014シーズンを境に営業収益は平均に抜かれ、置いて行かれています。チーム人件費も2014シーズンまでは概ね平均の水準で推移していたものの、2016シーズンを境にJ1リーグ平均に置いていかれています。
清水と言えばオリジナル10であり、サッカーどころである静岡のチームであり、1シーズンを除いてはJ2にも落ちておらず、チームとしては盤石な印象があります。ところが、財務諸表から見る限り、それほど豊かな財政状態ではないなか、何とかかんとかやりくりしているチームの一つです。
wikipediaによると、清水エスパルスは1991年、「清水FCの運営企業として、テレビ静岡をはじめとして中日新聞東海本社、フジテレビジョンなどが出資。市民からも1割の持株を募り、株式会社エスラップ・コミュニケーションズを設立」とあります。テレビ静岡もフジテレビ系ですので、Jリーグブームの流れに乗ったメディアが設立の主導になったのでしょう。そして、「1997年にエスラップ・コミュニケーションズの経営危機が表面化。20億円を超える負債を抱え、実質的な親会社のテレビ静岡が運営からの撤退を表明」。その後、「31万人を超える署名と1500万円の募金を集め、地元清水に本拠を置く物流大手鈴与の子会社で出版業を手掛けていた「サッカーコミュニケーションズ株式会社」(1995年11月設立)が第三者割当増資を行い、これに静岡鉄道・静岡ガス・静岡新聞社・小糸製作所が応じて株式会社エスパルスに改組、同社が営業権を譲り受けることになった」とあります。静岡市と清水市は今は合併したものの、地域のライバル関係にある地域ですので、清水市に本社を置く鈴与が親会社になったこと、メディアについてもフジテレビ系列の会社や中日新聞より静岡新聞が株主と入れ替わったことで、本当に「静岡県清水市」の企業になったと言えるかもしれません。

左伴前社長の回顧

このような経緯もあったことから、クラブ運営にはお金の苦労も伴ったようで、2015年から2020年1月まで社長を務めた左伴氏が以下のように宇都宮徹壱氏のYoutube番組「宇都宮徹壱ウェブマガジン 元外様社長が語る王国・清水での日々 左伴繁雄」以下のように語っていました(面白かったです)。
  • 就任当時は45億円の売り上げが第一集団の条件と考えていた
  • 就任当初は30億円
  • もう1年やりたかった。取り組みが結実するところ
  • チームに求めていたリバウンドメンタリティが根付いてきたところで退任
  • バスケットボールチームやモータースポーツから声
  • 清水で社長をやるのはプレッシャー
  • サッカー王国。高校選手権は静岡で優勝すれば全国で優勝できる
  • 地方大会の高校選手権をローカルテレビ局がそろって放映(それくらい盛ん)
  • しかし、清水エスパルスの財務規模は下から数えた方が早い
  • しかし街の人は「静岡のサッカーは強いもの」という大前提
  • 地元の人々は勝ち負けへの思い入れが強い
  • 降格が決まる1週間前に胃が痛くなって救急車を呼んだ
  • 担ぎ込まれた病院で医者の第一声が「お察しします」
  • 降格した際のチーム編成は自分は絡んでいない
  • 降格した時は当時の湘南より少し多いくらいの人件費
  • 「2010年の大量離脱に始まった。新陳代謝とチームの年齢構成がうまくいかなかった。そしてお金を投じてこなかったツケが今の状態」と降格時にサポーターに説明
  • 1年で復帰する条件は3つ。①主力選手が残留、②強化費は落とさない、③社長が「絶対戻る」と言い続ける
  • 某クラブでは社長室ではまずゴルフの話。エスパルスではスローインの方法が話題になる
  • 今日の練習にベストを尽くして、ベストの休みをとって、ベストの試合をする。岡田さんが言っていたこと。湘南で体感したこと
  • リブランディングプロジェクトの取り組みは、サポーターのエスパルスへの期待について考えたことによるもの
  • エスパルスは「オレンジ」というが、エンブレムには青もあるし、白もある
  • 到達すべき頂点に何を見ているのかを先に決めた方が良い
  • リブランディングプロジェクトによりアップデートして、強かった静岡と今後のエスパルスの強さがリンクするための気持ちを示したかった
  • 日産時代のリバイバルプランの経験が生きている。系列解体や聖域ないコスト削減
  • ロゴには愛着を持つ人がいる
  • クラブが変わろうとするという証拠を作ったのは、日産リバイバルプランと同じ発想
  • クラブが「変わろうと思って」と取り組んできたが、社長まで変わるのは行き過ぎだと思う(苦笑)
  • 新しいことをゴーンはやったわけではない。若者が考えていて「でもこれは上にあげても無理だよね」と諦めてしまうようなことを「それやろうよ」とした
  • 同じように清水でも良さ加減、悪さ加減を見えるようにしたいと考えた
  • 客観的にそれが良いのか悪いのかわかるように、他のクラブと数字を比較しないといけない
  • スポンサー収入を親会社から半分以上もらっているクラブがあるが、エスパルスは8割自前で稼ぐ
  • 45億円をターゲットに定め、営業を増強
  • 結果、スポンサーが1年で200社が300社を超えた。しかも、それは降格した年
  • みんなと同意した目標を達成していくというのは、日産リバイバルプランで学んだこと。自分はあくまでもガイドしただけ。
  • エスパルスに残したものはフロントの粘り。例えば営業では「5回いくまでは引き下がるな」と取り組ませた
  • 追い込まれたときにバタバタしないクラブになった

静岡のドラえもん 鈴与

左伴前社長の話を聞き、まず感じたのは親会社である鈴与の存在です。
鈴与とは静岡市(旧清水市)の企業グループで、商社、建設、物流、食品などの機能を有し、30社以上の企業から形成される静岡県(駿河地区)の名門コングロマリットです。グループ全体の売上高は4,000億円を超えるようです。
私が就職活動の際に資料請求の葉書を出したことがあり(歳がバレますね)、人事部の方からの電話を母親が受けたようで、「とても礼儀正しい鈴与の人から電話があった」と言う話があったこともあり、個人的に好印象を持っています。
まず、鈴与については、テレビ静岡主導で経営危機に陥った清水エスパルスに出資することにより救ったこと、そして清水エスパルスが降格した際、3億5000万円の減収が予想されたところ、それを埋める以上の4億円の広告料を出したとのこと。清水エスパルスにとって困ったときの頼もしい鈴与になっています。
また、サッカーに限らない話となりますが、最も鈴与の動きに驚かされたのは、静岡空港開港の際の鈴与の動きでした。静岡空港は2009年に知事の相当な力業により開港したはいいものの、需要不足、及び東京にも大阪にも近すぎて飛行機が飛ばせないという根本的な問題を抱えるため、就航する航空会社がありませんでした。そこで出てきたのが鈴与です。フジドリームエアラインズを設立し、就航誘致に苦しむ静岡県をサポートします。
これらの事例から、鈴与は静岡県(駿河地域)で困ったことが起きたら助けてくれるドラえもんのような存在に見えます。
もしもが発生した際の鈴与のコミットの結果、清水エスパルスのマネジメントは低水準の自己資本比率にあることはさておき、稼ぐ力を向上することに注力したのでしょう。

営業収益増収の取り組み

先述のYoutube番組のもう一つの印象深かった話は、左伴前社長が売上(営業収益)を常に意識し取り組んでいたことです。
2017年のサポーターミーティングでは、左伴社長は3カ年計画(いつからの3カ年かは私の手元には情報がなくすみません)では営業収益40億円、強化費18億円を目標としていると語っていました(Youtubeの方では45億とありましたが)。2017年1月期の清水の営業収益は33億円です。それはJ1リーグでトップ3に入るための一つのバーであると当時の左伴社長は考えていました。
ウェブで見る限り、2017年から2019年のファンミーティングの議事録が確認できますが、マネジメントとしては清水エスパルスがふさわしい規模になるため、長期的視野に立った取り組みをしていたように理解できます。
以下、個別に見てみたいと思います。

リブランディングプロジェクト

最もファンミーティングやYoutubeで取り組みとして言及されていたものです。リブランディングプロジェクトは平たくいうとエンブレムの見直しです。確かにJリーグ関係のエンブレムはいわゆるあの、カズが風船からボーンと出た、バブル臭を感じるものが結構あります。その典型がJリーグそのもののエンブレムです。当時のDCブランドのような時代の違うキラキラ感を感じます。あの頃F1が流行し、Tスクエアの音楽が流れるような。
そうした時代に出来たエンブレムを、ファンの声を集めながら新たに作り上げていくというものです。字体、色味、エンブレムに地名を入れるのか、など2018年10月から2019年12月までに作り上げます。この結果、こんなエンブレムが出来上がりました。カッコイイです。このプロジェクトが素晴らしいと思えるのは、サポーターのロイヤリティを上げること、そして、何より予算が大規模にかからないことです。
そして、このプロジェクトは大きな意味があると考えています。もちろん清水エスパルスに関わる人々のプライドを喚起するのが一義的なものでしょう。一方で、売上の観点では収益的には物販収入の拡大を見込んだもの、そして最終的には入場者増などへの波及を狙ったものなのだろうと思っています。サッカーどころの静岡としては、地元の理解は高いものの、大きな金額を獲得できる大きなスポンサーは多くないです。この結果、鳥栖は東京からスポンサーを見つけてきているのですが、地域がプライドを持ちつつ、サッカーが根付いている静岡という立地を考慮し、地元の一般の人々からの収入獲得という取り組みを行ったのだろうと考えています。例えば、街に出ると、マンチェスターユナイテッドやバルセロナのエンブレムが入った服を身に付けている人を見かけることも多いですが、Jリーグチームのそうしたグッズを日常身につけている人は試合の日を除いてそれほど見かけません。リブランディングプロジェクトは、清水エスパルスがそうした日常に食い込んでいくための先鞭として取り組まれたのかと思います。そして、日常にエスパルスグッズを目にする機会が多くなり、身近に感じる人が増える(特に子供だと思います)。そして関心を持ち、試合に応援に来る、という循環も見込んだものなのでしょう。
物販収入の異なるところは、スポンサー収入と比較しBtoCであること、そして入場料と比較し天井がないことです。物販収入をさらなる柱に育てられれば、収益構造としてはブレにくくなり大きな強化となるでしょう。
清水エスパルスのグッズ販売の売上比率は10.3%で、2019シーズンJ1リーグ平均では8.8%です。2019シーズンの決算で最も物販収入の比率が高いのは、浦和レッズで12.4%。仮に物販収入が浦和並みの水準となった場合、2020年1月期の売上から試算すると1億円程度の底上げになります。実際にはもっと高い水準を期待したいところですが、一つの取組事例として今後の物販収入の推移とその先に注目したいです。
この、クラブのアイデンティティを確立するためのブランディンプロジェクトに際し思い出すのは、大洋ホエールズから横浜ベイスターズに変わった時のことです。ショックでした。「ベイスターズって何だ?」、「湾の星?」、「そんな単語あるのか?」、と大洋のシックなユニホームと変な名前に変わってしまったショックをいまだに私は引きずっています。高木豊のベイスターズのユニホームが似合わないこと似合わないこと。アイドルCoCoが歌う応援歌の軽いこと。
この清水の取り組みは羨ましいです。もし、ホエールズがこれをやっていたらどうなっただろうとも思いました。他のチームでもやった方が良いと思います。

スクール

清水エスパルスのスクールの売上はJリーグ上位です。
2019シーズン J1リーグアカデミー関連収入ランキング
予算が限られるチームであること、そしてサッカー人口が厚い地域性を考慮すると、スクールに力を入れることは売上以上に有望選手獲得やサポーターのロイヤリティ向上に寄与する重要かつ長期的な取り組みです。
左伴社長はスクールへも手を入れました。
2019サポーターミーティングによると、スクールの値上げを行ったとのこと。理由はスクールが赤字でトップチーム人件費から費用を工面しているため、スクールの部門一つで自立する必要があるとの判断だそうです。赤字の理由としては、スクールの会費が事業開始以来の金額である一方、スクールが5カ所から26カ所に増えたため、その分の固定費がかかってきたのが要因です。開示されている損益計算書を見るとアカデミー関連の収支(スクール)は下表の通りです。
アカデミー収支の推移
粗利自体は黒字ですが、恐らく販管費の配賦も考慮して評価すると赤字なのでしょう。値上げは2018シーズンと見られますが、粗利ベースで確かに2020年1月期(2019シーズン)の粗利は57百万円から95百万円と大幅に上昇しています。これがスクールに送り込む親御さんたちから支持されるかは今後のアカデミー収入の金額で確認できるでしょう。
また、議事録によるとスクールの人数は2019年の時点では4,000人おり、リーグトップとのこと。3,500人(いつの時点からかは不明)から増加させたそうです。
アカデミーの収支、及び今後のユース組からのトップチームへの昇格の人数を確認することにより、この策の成否としては今後注視していくと面白そうです。

新スタジアム

現在、IAIスタジアム日本平は、サッカー場そのものとしては評価が高いものの、施設基準に示される「観客席すべてに屋根をかけること」や「洋式トイレ」などにおいて、基準を満たしていません。アクセスにも問題を抱えています。清水駅からバスで20分、静岡駅からバスで40分です。新スタジアム建設は長年清水エスパルスの課題になっていて、今なおその計画は確定しておらず、左伴氏から社長を引き継いだ小室社長も課題として引き続き取り組んでいく方針です。
清水エスパルスの入場者数は2017シーズンが平均15,116人、2018シーズンが同14,991人、2019シーズンが15,043人と15,000人程度が観戦に訪れています。IAIスタジアムの収容人数が19,549人ですので、収容率は77%程度です。悪い数字ではないと思いますが、仮に新スタジアムで試合開催ができた場合、入場料及びその他副次的な効果も含めてアップサイドが期待できるでしょう(使用料もあると思いますが)。

新社長就任

2020年1月より、清水エスパルスは山室新社長を迎えることとなりました。第一勧銀に入行、後のみずほ銀行では執行役員になり、その後2014年1月に千葉ロッテマリーンズの社長に就任し、就任前は推定年平均27億円の赤字を計上していた球団の黒字化を果たした人物です。みずほ銀行にて、いわゆる旧帝国大学出身ではなく、私立大学出身であること、旧3行の中で最も出世が難しい第一勧銀出身者であること、そして何より千葉ロッテマリーンズでの実績を考えるとかなりのやり手なのではと思います。
先述のYoutubeの番組では、左伴前社長は毎年1年契約ではあったものの、直前まで退任の打診は特段なく寝耳に水だったようです。左伴前社長はこれまでのキャリアでは、横浜Fマリノス、湘南ベルマーレとそれぞれ6年一区切りで迎えてきたため、5年での退任に心残りをにじませています。恐らく、山室社長も手腕を発揮されるのだと思いますが、左伴前社長のエスパルスへの種まきも踏まえて今後の清水エスパルスを眺めていきたいと思います。

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