黒字転換
サガン鳥栖オフィシャルウェブサイトにて、事業報告の概要が開示され、2023年1月期の決算概要が明らかになりました。
結果は、経常利益として198,979千円、当期純利益として177,776千円を計上し、それぞれ2020年1月期以来の黒字となりました。
黒字化の最大の要因は売上高の回復です。当期の売上高は2,760,558千円と、前期比22%増加しました。
損益計算書の推移
(出所:クラブHP数値を当ブログが加工)
当期の売上高2,760,558千円はコロナ前の2,561,604円を上回るもので、コロナ前の水準を回復しています。大したものです。それでは、売上の内訳を下表で確認してみましょう。
売上高の内訳
(出所:クラブHP)
興行収入は557,540千円と前期比19.1%増加しました。これは、コロナによる入場制限が緩和されたものです。
そして広告料収入は1,040,783千円と前期比59.6%増加しました。売上規模、増減率の観点からこの広告料収入の増加が最大の黒字化要因です。
商品売上高は218,795千円と前期比10.3%増加し、増収に寄与しています。その他の売上項目はコロナ蔓延の時期においても変動が少なかった項目です。
以上より約5億円の増収を達成し、黒字化を達成しています。
クラブによる開示では、売上高の次が経常利益でしたので、その差引から「売上原価+販管費+営業外損益」を算出したところ、当期の同費用は2,561,579千円と前期比5%増加に止まりました。恐らく、コロナによる入場制限の緩和により試合開催関連による費用増加があったものと見込んでいます。そして、商品売上高も増えていますので、その原価も増えているはずです。この辺りが増加の要因でしょう。
また、前期比の増減以外のところで言うと鳥栖のポイントは人件費のマネジメントだと思います。人件費はJ1だと売上高及び営業費用の50%程度を占め、クラブの損益を売上高について左右します。「売上原価+販管費+営業外損益」が前期比5%増加ということは人件費は前期比と同水準か少ないかなのかなと思います。2022シーズンの各クラブの決算数値は開示されていないので、2021シーズンで見ると鳥栖の人件費は1,334百万円で57クラブ中20位です。多分2022シーズンも同じような水準にあるのではないかと推察します。こちらの投稿で2021シーズンの人件費のランキングを載せていているのですが、鳥栖より少ないJ1のチームは湘南(1,293百万円)、大分(1,251百万円)、仙台(1,156百万円)です。大分、仙台がその後降格し、湘南は毎シーズンギリギリ残留という事情を考慮すると、一方鳥栖は2022シーズン11位、2021シーズン7位、2020シーズンは13位と見事としか言えません。
仮にJ2に降格した場合、Jリーグからの配分金も2021シーズンの実績で考えると概ね2億円ほど減額されますし、興行収入についても入場者減少により減少するでしょうし、広告料収入も単価や数量に影響を及ぼし減少することが見込まれます。仮にJ2に降格していたら、黒字を達成することは無理だったのではないでしょうか。こうした事情を踏まえると、今期の黒字はチームと営業が掴み取った好決算なのだと思います。
なお、鳥栖の売上高については、最大で4,257百万円ありました(2019年1月期)。DHCやサイゲームスなどの大口の在京スポンサーを獲得していたのが大きな要因です。現在の売上高はこの頃の水準には及ばないものの、コロナ前の水準を回復し、コストもコントロール。地に足がついた運営が行われている感があります。
債務超過
当期決算の結果、債務超過額は464,023千円から286,246千円となりました。
もともと、Jクラブのクラブライセンスの財務基準として、原則として①3期以上連続で当期純損失を計上した場合、②債務超過の場合という二つの基準のいずれかに抵触した場合、下位カテゴリに降格されます(J3の場合、勝ち点10減)。
しかしながら、コロナ禍のため2024年度末まで特例措置が運用されております。
この結果、サガン鳥栖の場合はとりあえず①はリセット、②について2025年度末までに債務超過を増やさず解消を目指す形になります。個人的には地元企業からの増資で債務超過を解消を目指すシナリオを想定していましたが、当期のペースの黒字を計上し続けるのであれば2期で債務超過を解消できそうです。
社長交代
それから、最後にクラブの社長交代について触れておきます。
2023年2月、クラブの社長は福岡淳二郎氏から小柳智之氏となりました。
2022年1月期決算に係る当ブログでの投稿において、福岡社長就任に関する若干の懸念を感じていました。一つは佐賀県サッカー協会会長と兼務であること(集中できない、ケースによっては利益相反の可能性も)、もう一つはお金を中心としたやりくりについての手腕です。福岡前社長は良い意味でこうした懸念を裏切ってくれました。
「J論プレミアム」というサイトにおいて、福岡前社長が経緯を語ってくれています。これを読むと先程の広告料収入がなぜ増えたのかの経緯がわかります。
なお、報道によると佐賀県サッカー協会は理事による現在横領問題に揺れているようです。福岡氏にはこちらの解決に尽力していただきましょう。ひょっとすると、懸念していた兼務の皺寄せはサッカー教会に行ってたのかもしれません。
小柳新社長については、クラブの内部からの昇格です。クラブの事情も熟知しているでしょうし、民間企業の経営に関しても関与していた経歴もあることから、適した人にバトンタッチされたと言えるでしょう。それにしても若いですね!
小柳智之氏経歴
生年月日 | 1986年2月4日(37歳) |
出身地 | 佐賀県鳥栖市 |
略歴 | 2010年 株式会社サガン・ドリームス 入社 2017年 株式会社サガン・ドリームス 管理本部長 2022年 九州乳業株式会社 社長室 室長 |
今後も、サガン鳥栖は追いかけていきたいなと思っています。
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