J2オリジナル10
Jリーグには、J1だけでなく、J2にもオリジナル10というのがあります。甲府は栄えあるJ2オリジナル10として、以下のチームとともにJ2リーグをスタートしました。
<J2 オリジナル10>
札幌、仙台、山形、大宮、FC東京、川崎、甲府、新潟、鳥栖、大分
見てすぐにわかる通り、ここから多くのチームが出世を遂げました。
現在、J2に残っているのは、山形、大宮、新潟、そして甲府です。しかし、これらのJ2組も一時期はJ1でプレーし降格した出戻り組であり、J1は経験済みです。これらクラブはエレベータークラブ化、いや、むしろジェフやサンガのように泥沼化している感があります。いわゆる「J2 沼」で検索できる例の犬の漫画の状況です。しかし、もちろんその沼の味をこれまですでに嫌というほど知っているはずのチームたちだとは思いますが。
経営危機からの堅実経営
かつて、観客数が1,000人を割る試合があるなど観客は閑散、債務超過に至ることもあり、存続するか否かの経営危機から立ち直った甲府は、堅実経営でここ10年は2015年1月期を除いて赤字を出していません(2010年1月期、2011年1月期は特に大変だったと思いますがギリギリの損益フラットで踏ん張りました)。また、固定した練習場もなく、草創期には爪に火をともすような運営をしてきましたが、2013年にはクラブハウスと練習場が完成し、少しずつクラブとしての積み上げを図ってきました。
2006年シーズンの初のJ1昇格から昇降格を幾度か繰り返し、2018年シーズン(2019年1月期)にJ2に舞い戻ってしまったものの、それまでJ1には5期連続で残留し、やりくり上手なクラブとしての評価は高いものがあります。
J2オリジナル10 営業収益の推移
先ほどの前置きを踏まえて、J2オリジナル10の営業収益の推移を見てみましょう。

甲府は他に置いて行かれています。
もちろんグラフで見る限り出遅れているのは甲府だけでなく、大分も山形も出遅れているのですが、大分はある意味型破りな特殊な経緯をたどったクラブですし(今はJ1ですし)、山形もなんだかんだで上昇トレンドを描いているようには見えるので、甲府と同じような営業収益の水準であるものの、甲府と状況が違うようにも感じます。感覚的には、むしろ甲府と同様の伸び悩み感は新潟のほうがある気がします。いずれにせよ、今列挙したクラブとともにJ1を目指しつつも伸び悩んでいます。
かつて甲府の試合を見に行った際、ピッチで躍動する伊東純也と下田北斗を見て、「これから甲府は新しい時代が来る」と注目していましたが、なんだかスカッとしない状況です。
J2ニューカマーにも追い抜かれ、追いつかれ
上図は、2018年シーズンのJ2チームの営業収益です。甲府の営業収益が他のJ2オリジナル10に引き離されていると申しましたが、甲府と比べJ2へのニューカマーの長崎や松本には営業収益で追い抜かされ、岡山はすぐ後ろに肉薄されています。恐らく、サイバーエージェントがついた町田は今後はムキムキになり、水戸はクラブとしていいスパイラルに入っていきそうで、甲府は単なるJ2オリジナル10だけでなく、J2という中でも足踏み感を感じます。
出遅れの理由
甲府がJ2オリジナル10の中で出遅れ組に入っている最大の理由は、マーケットの規模によるものと考えます。このJ2オリジナル10のチームの本拠地の人口(2015年)は次の通りなので確認してみましょう。※ちなみに、複数市町村を本拠地とするチームは多いですが、ここでは便宜上その中心都市のみ取り上げます。
チーム | 本拠地人口 |
札幌 | 195万人 |
仙台 | 108万人 |
山形 | 25万人 |
大宮 | 126万人 |
FC東京 | 927万人 |
川崎 | 148万人 |
甲府 | 19万人 |
新潟 | 81万人 |
鳥栖 | 7万人 |
大分 | 48万人 |
甲府に人口が19万人しかいないことを今回初めて知りました。鳥栖が最も少なく(実際は交通の便が良い場所で、かつ福岡と経済圏が被り、もっと広域にみることもできるところですが)、甲府はお尻から2番目です。
ただ、今やJ2オリジナル10はJリーグ全体の顔となるチームや日本を代表する大都市が含まれています。このため、2020年シーズンのJ2チームの本拠地人口と比べてみましょう(既出であるJ2オリジナル10の人口は割愛します)。
チーム | 本拠地人口 |
水戸 | 27万人 |
栃木 | 52万人 |
群馬 | 34万人 |
千葉 | 97万人 |
東京V | 927万人 |
町田 | 43万人 |
松本 | 24万人 |
金沢 | 47万人 |
磐田 | 17万人 |
京都 | 148万人 |
岡山 | 72万人 |
山口 | 20万人 |
徳島 | 26万人 |
愛媛 | 51万人 |
福岡 | 154万人 |
北九州 | 96万人 |
長崎 | 43万人 |
琉球 | 32万人 |
甲府より人口が少ないのは磐田市だけです。
それなら、J3ならどうでしょうか?
チーム | 本拠地人口 |
八戸 | 23万人 |
岩手 | 30万人 |
秋田 | 32万人 |
福島 | 29万人 |
YS横浜 | 373万人 |
相模原 | 72万人 |
長野 | 38万人 |
富山 | 42万人 |
藤枝 | 14万人 |
沼津 | 20万人 |
岐阜 | 41万人 |
鳥取 | 19万人 |
讃岐 | 11万人 |
今治 | 16万人 |
熊本 | 74万人 |
鹿児島 | 60万人 |
甲府以下の人口のチームは、藤枝、鳥取、讃岐、今治と下から数えたほうが早いです。ということは、乱暴な言い方をあえてすれば、甲府はJ3チーム並みのマーケットでやりくりしてきたということです。
J1昇格と定着のために
札幌の野々村社長がある記事で「J1にしっかり残るには、強化費が15億円以上はないと厳しい」と話していました。J1昇格、定着の鍵として、チーム人件費について検討したいと思います。
2018年シーズンのJ1のチーム人件費の平均は、22億7,500万円でした。
J1各チームの人件費をみてみると、下表の通りとなります。
チーム | チーム人件費(単位:百万円) |
神戸 | 4,477 |
鹿島 | 3,157 |
浦和 | 3,108 |
名古屋 | 2,823 |
柏 | 2,806 |
鳥栖 | 2,670 |
川崎F | 2,614 |
C大阪 | 2,334 |
横浜FM | 2,301 |
G大阪 | 2,193 |
FC東京 | 2,133 |
広島 | 1,864 |
清水 | 1,811 |
磐田 | 1,721 |
札幌 | 1,502 |
湘南 | 1,384 |
仙台 | 1,232 |
長崎 | 814 |
18億円の清水以下は残留争いをするチームばかりです。これをみると、15億円でも厳しいですね。しかし、2018年シーズンの甲府のチーム人件費は7億4,700万円で、その15億円の半分でしかありませんので、まずはこの財政規模の運営を目指すべきでしょう。なお、チーム人件費は、どこのチームでも概ね営業収益の半分くらいを占めます。このため、先ほどの数字から割り戻して、甲府の目標としては目標人件費15億円の2倍の30億円の営業収益を達成することが目標となるでしょう。甲府の2018年シーズンの営業収益が15億1,100万円だったので、30億円の営業収益を達成するには、ちょうど営業収益も2倍にすることが目標となります。
15億円の増収を目指す
増収を検討するために、最新の甲府の営業収益の内訳を見てみます。
金額(単位:百万円) | |
営業収益合計 | 1,511 |
スポンサー収入 | 760 |
入場料収入 | 297 |
Jリーグ配分金 | 286 |
アカデミー関連収入 | 19 |
物販収入 | 62 |
その他収入 | 87 |
新スタジアム実現は必須事項
営業収入15億円増収を目指すにあたり、まず入場料収入についてコメントします。2019年シーズンの甲府の平均入場者数が、8,273人でした。これを2倍にしたいです。山梨中銀スタジアムの収容人数が15,853人なのでで理論上はそのままでも概ね近い人数を収容できますが、現在、山梨県が進める20,000人収容の集客力のあるサッカー専用スタジアムの構想を必ず実現する必要があると思います。これにより、入場者数(収入)を2倍にし、15億円のうち3億円を工面したいところです。
スタジアムの先の戦略が求められる
残り12億円です。仮にJ1に昇格できた際は、Jリーグからの配分金がある程度の増加が見込めるため1〜2億円増えるとみなし、10億円の増収を目指すとしましょう。
しかし、ここからは企業としての戦略が必要になると思います。例えば、過去の事例から見ると、大きなスポンサーを落とす。都内のネット企業に買ってもらってスポンサー収入を増やす。東南アジア選手を獲得し、セットでスポンサー収入を目指す。スタジアムの指定管理者となり、稼ぐ。若手選手を育てて売る。何か新しい商品を売る。といったような取り組みをチームに合わせて検討し、10億円をいかに作るかの方針が欲しいところです。
すでにそうした方針や計画があるのかもしれませんが、あるのであれば、是非開示してアピールするべきです。それがサッカー専用スタジアム実現の後押しにもなるでしょう。
愛されるJ2チーム路線を目指すのも一つの選択
J2にいながら、たまにJ1昇格を目指す経営方針もアリだと思います。人口19万人、全県合わせても80万人程度というお膝元のマーケットのサイズを見ると、現在のJリーグであれば、J3にいてもおかしくないと事業環境であると思います。その中で、J1を時に伺いながらJ2を戦うというのも、コツコツしたこれまでのやり方と合ってきてそれはそれで悪くないと思います。
最後に
私は、お金がないけど頑張るチームが好きなので、甲府はいつも気にかけています。
そういうところから、今年の甲府の選手名鑑を見ていたら、たまたま金園選手の記載に目が止まりました(この人ももっと活躍できる選手で、期待しています)。彼の最近の悩みは「鳥谷の去就」だそうです。リーグ再開後は、金園選手が憂いなくサッカーに取り組んで活躍する姿が見られそうです。
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