債務超過はベガルタ仙台だけではない。J全クラブの債務超過/資産超過を試算してみた

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他クラブの損益と自己資本を試算する

ベガルタ仙台の決算数値に対し、前期の決算数値に以下の条件を掛け合わせたものを今期の損益見通しとして試算してみました。

勘定科目

想定

備考

スポンサー収入 前期の85% ベガルタ仙台の見通し前期比84%を参考
入場料収入 前期の25% ベガルタ仙台の見通し前期比24%を参考
Jリーグ配分金 前期数値横置き リーグからの前期並みの支払いがあると見做した
アカデミー関連収入 前期の50% ざっくりで仮置き
物販収入 前期の50% ざっくりで仮置き
その他収入 前期の50% ざっくりで仮置き
営業費用 前期の90% 一定のコスト削減を実施と想定。

留意事項としては、計算プロセスを分かりやすくするため、前期の損益計算書に機械的に上記前提を当てはめています。このため、前期の鳥栖の様に特殊な大赤字を計上したり、リーグ優勝により多額の配分金を獲得したクラブについても、前期決算数値を採用し、個別事情を配慮していません。ベガルタ仙台については、女子チームを譲渡しておりますので、実際はそこのコストを抜いた額が見通し数値とするべきですが(そうすると概ね今回の会社見通しと近そうです)、やはり機械的に前期数値を適用しています。

それではみていきましょう。

J1クラブのシナリオ適用後の損益と自己資本(単位:百万円)

J1で資産超過となると試算するのは、鹿島、FC東京、川崎、松本、広島です。鹿島と川崎は優れたマネジメント、FC東京は東京ガスによる潤沢な資本が効いています。意外だったのは松本です。調べてみると、松本は毎年数千万円規模の黒字(2017年1月期は143百万円の黒字)を積み上げ、コツコツと積み上げた利益剰余金が今、大きな助けになっています。

ちなみに、横浜FM、C大阪、名古屋などの債務超過額が大きいのは、税務上の理由などからあえて資本金を多く積んでいないことが要因であると推察しています。このため、これらのチームの債務超過額が大きいことは、個別要因であると考えています。鳥栖についても、大口スポンサー撤退による大赤字を計上した前期がベースですので、コスト圧縮を心がけて運営している今期の数値はここまで酷いものにならないでしょう。

J2クラブのシナリオ適用後の損益と自己資本(単位:百万円)

資産超過のチームでまず驚きは栃木です。栃木はJ3に降格したシーズンも含め、毎年黒字を計上しています。マネジメントは評価されるべきです。町田はサイバーエージェント買収後はムキムキになりました。勝手な印象ですが、サイバーエージェントの経営は、お金はジャブジャブ持ちながら、使わずに持ち続けるイメージがあります。勝手ですが、町田のジャブジャブした状況に何となく納得感があります。徳島は栃木と同じく毎年黒字を計上し、869百万円という、J2でトップ、J1でもビッグクラブに次ぐ水準の利益剰余金を有していることが功を奏しています。

柏の債務超過額が大きいのは先述の横浜FMやC大阪と同様の理由だと推察します。

 

J3クラブのシナリオ適用後の損益と自己資本(単位:百万円)

J3は讃岐が唯一の資産超過の見通しです。讃岐は2020年1月期末で自己資本が131百万円あり、J3で最大です。そして、讃岐の昨期の入場料収入は45百万円にとどまるので、今回のシナリオを適用したとしてもネガティブインパクトが限定的だったというところが要因です。

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今後の課題と私見

まず、一つ申し上げます。先述の試算は私の勝手なこねくり回しです。これが当たっているのか、さっぱり当たっていないのか、来年確認するのを楽しみにしています。外れていたらすみませんm(_ _)m。

本題に入ります。Jリーグクラブは概ね、収入と支出でトントンのお金のマネジメントをします。今期も各チーム同様だと思いますので、今回の仙台が良い例ですが、大まかな感じで言えば、入場料収入及びスポンサー収入が落ち込んだ分だけ、赤字が発生するイメージとなるでしょう。債務超過の観点でいうと、この赤字を自己資本で吸収できるかがポイントになります。

このような赤字を余儀なくされる経営環境のもと、クラブとすべきはまず、運転資金の確保です。債務超過だろうとなんだろうと、目先に、給料が払えなくなる、試合を実施するための費用が払えない、となると、債務超過解消の努力以前にチームが継続できません。そして、運転資金の目処がついて初めて、恐らく別途設けられるコロナ禍に合わせた期限までに、債務超過からの回復を目指すことになります。具体的には、合理的な計画を作成し、銀行から借入を行ったり、支払いを遅らせたりすることが考えられます(実際は後者の手段を採用することはよっぽど追い詰められない限りありませんが)。

債務超過からの回復は、原則として①利益確保による利益剰余金の積み増し、②増資、の二つの手段により行われます。

収支トントンで運営が為される性格であるサッカークラブの運営において、今回の様に全般的に大きな債務超過が発生する場合は、基本的に②の増資を中心に検討し、Jリーグのレギュレーションを勘案しながら②+①の可能性も探るようになるでしょう。Jリーグが債務超過解消までに例えば10年近くの余地を各クラブに与えるのであれば①の選択肢もあるにはあります。

このような中、債務超過に対し根本的な解決策である増資を実施する場合、第一に、親会社のあるチームはやはり相対的に有利な立場に置かれます。

J1チームで親会社がないのは、仙台、松本、大分です。

松本については、良好は財務状況を持ち、先ほどの試算では資産超過となります。大分も頑張って蓄えた利益剰余金と高い収益力から、債務超過を乗り切るのではないでしょうか。

一方で、仙台、大分については、地方自治体が大株主であり、先述の通り支援先の確保だけでなく、増資の際にはそれゆえの複雑な手続が付随するでしょう。公的な色が強いチームの場合、日頃の備えとして、チームが存在することによる経済波及効果を地域に認識されているようにしていると、緊急事態での支援がスムーズに進む助けになるでしょう。

そして、もう一つ。第二に親会社があることは優位と申しましたが、その「親会社」とは経営の揺らいでいないことが条件となります。

そういう点で見ると、注視したいのは、J1では以下のチームです。

浦和は、三菱重工及び三菱自動車の経営不振から、支援のあり方が議論になりそうな気がします。三菱グループにおいて、重工と自動車以外のグループ企業への支援たらい回しや三菱グループの完全撤退があってもおかしくないと考えています。横浜FMと湘南は、本業で親会社が資金調達に奔走していた経緯から、1000万程度の細かいお金の使い道に関してすら金融機関から口出しされている可能性があります。この2チームについては、増資の過程で親会社の入れ替えが発生しても驚きません。そして、清水は親会社の鈴与が新規参入の航空会社がコロナ禍に苦しめられています。鈴与の屋台骨が揺らぎ、支援がスムーズに行かない可能性について否定はできません(多分大丈夫だと思ってはいますが)。

一応、鳥栖についても触れます。鳥栖については、よくわかりません。前期末に20億もの増資をどこが行ったのかも開示されていないようですし(1社が当該増資を行っていれば増資元の子会社となると思います)、前期決算にかかるサポーターズミーティングにて社長が適切なタイミングで前期の主力スポンサーに代わる新たなスポンサーを発表するという話でしたが、半年経った今でも明らかになっておらず、何が何だか分かりません。直感的には、どこかのタイミングで経営的なパルプンテが起きそうな気がします。

チーム数がいっぱいあるので、J2、J3のクラブについて、コメントは割愛させて頂きますが、J2、J3のクラブは、J1ほど営業収益のうち、入場料収入の割合が高くないことから、一見、数字的にはJ1ほどの大変さはありません。しかしながら、相対的に小さな都市を本拠にするチームが多いことから、資金確保にはやはりJ1チーム同等の苦労をすることでしょう。

各クラブ、ここからが新たな踏ん張りどころです。

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